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気球撃墜騒動 [評論]



アメリカでの気球撃墜騒動が世界的なニュースとなりました。
私は、これまで、アメリカのアジア政策は口先政策の域を出ていないと思っていましたので、アジアでの紛争(朝鮮半島、台湾、南シナ海、東シナ海)へのアメリカの軍事介入は限定的なものか、或いは、全く関与しないか、になるのではないかと思っていました。その最大の要因が、アメリカの国民世論の内向き傾向だったと思います。
しかし、今回の気球撃墜騒動が、ほんの少しだけですが、その空気を変えたのではないかと思っています。
気球が人間の目に見えたことで、その映像が拡散したことで、自分の生活との関連性を否定できなくなったために、国民の中に、「いや、いや、これって、ヤバくねぇ」という心配が生まれました。ロシア、中国、北朝鮮のICBMは国民の目には見えません。自分の目で見えないものは、脅威だと実感することが難しいのです。たかが気球ですが、目視出来たことが、人間の感情を波立たせる結果になったと思います。まだ、一部の国民の感情に影響を与えただけですが、世界の対立は激しくなることはあっても、収まることは期待出来ませんので、今後もアメリカ国民の感情を刺激する事態は起き続けると思われます。
これは、アメリカで世論が変化する可能性が出てきたということです。
過去に、4回(実際の回数は不明)、中国の軍事気球は、アメリカ本土上空にやってきましたが、アメリカ政府はそれを発表していませんでした。その意図は、よくわかりません。
しかし、今回は、民間人が気球を発見し、その映像が拡散されたことで、内緒にできなくなってしまいました。
中国の軍事気球が、自分の家の上空にあったことで、アメリカ国民は現実的な恐怖を感じたようです。
日本では、北朝鮮のミサイルが日本上空を飛んだり(特に、Jアラート)、中国・ロシア艦隊が津軽海峡を横断したり、尖閣諸島での巡視船の戦いを体験していますが、アメリカ国民は、アメリカに住んでいる限り安全だと思ってきたのです。
今回の気球騒動では、気球に向けて、ライフルを撃った市民もいるそうです。もちろん、ライフルの弾では届きません。
アメリカ人にとって、中国の軍事的脅威は、地球の裏側の「他人事」だったのです。ところが、1個の気球で、突然、中国の軍事的脅威が、目の前に現れ、「自分事」になってしまいました。
気球の目的は、軍事的な情報収集だという意見が多いようですが、もしも、気球に生物・化学兵器が搭載されていればと考えた人もいたと思います。その可能性はゼロではありません。中国製の生物・化学兵器で、自分の生命が危険に晒される可能性はあるのです。アメリカ国民に、中国の軍事的脅威が直接実感される状況が、初めて出てきたのです。
当初、バイデン政権は、これまで通り「知らんぷり」をするつもりだったと思いますが、世論が「バイデン政権は、中国に弱腰だ」という方向へと向かい、無視できなくなり、撃墜という手段に出ざるを得なくなったものと思います。
1個の気球が、アメリカ国民の間に、「中国の軍事的脅威は排除しなければならない」という気運を作ってしまった事件だったと思います。しかも、それは、どこか薄気味の悪い、得体のしれない恐怖感ですから、消化し難い一面があります。
私達日本人でも、中国を理解するのは難しいことですが、アメリカ人が中国を理解するのは、更に難しいのかもしれません。それは、歴史の違い、文化の違い、統治体制の違い、言語の違い、宗教の違い等々の目には見えない部分での違いによるもので、理屈ではなく、肌感覚みたいなものです。
すぐさま、「中国を抹殺しろ」という世論にはなりませんが、これからも、別の事案が浮上する度に、世論は強硬なものに変化する可能性があります。アメリカでは、コロナは、中国が世界にばら蒔いたと信じている人も、それなりに存在するそうですから、私もそう思っていますが、不信感の上塗りは強固な不信感へと変わっていくものです。
中国は、これまで、数十個 (確認されていないものを含めると、数百個かもしれませんが) の気球を世界各地へと飛ばしています。この中国製の気球は、風任せに飛行するのではなく、ソーラーパネルで電力を得て、進路を変える推進力を持っているようですから、偏西風を利用した上で、意図的な飛行経路を飛ばす力があるようです。気球から撮影したアメリカの画像も公開していますし、その性能を自慢する記事が公開されているそうです。
気球作戦立案の当初は、気球の大きさも小さく、搭載している機器も気象観測用機器だけだったのかもしれません。なぜなら、明らかに、領空侵犯を犯すのですから、撃墜の可能性は検討したと思います。しかし、これまで、どこの国も放置していたのですから、中国は、それが当たり前のことだと思ってしまったのでしょう。気球の大きさも、搭載する機器もエスカレートしていき、情報収集だけではなく、攻撃する機能(生物化学兵器投下装置、電磁波装置等)も搭載していたかもしれません。昔、日本軍は攻撃用気球を飛ばし、非常に小さな確率でしたが、アメリカ本土攻撃に成功しています。アメリカ人の人命も失われたそうです。昔の気球は、風任せの気球でしたが、気球爆弾は実在したのです。
これまで誰も騒がなかったことで、中国は勘違いをしてしまったのだと思います。
中国にとって、気球がアメリカで撃墜されたことは、想定外の出来事だったと思います。
「気球は中国の物ではない」「アメリカのフェイクニュースだ」とは言わずに、つい、謝ってしまいました。
中国にしたら、珍しいことに、対応がブレました。その後の対応も二転三転し、「アメリカの偵察気球も、中国領を侵犯していた」と言い始め、「青島近辺で発見された気球を撃墜する指令を出した」と発表しました。その後、中国報道官は、米国が「対空砲で蚊を撃っている」「ばかげた大規模な政治的パフォーマンスショーに莫大な金をかけている」とし、力み過ぎて「ぎっくり腰」にならないよう注意を促す、というジョークまで披露しました。その後も、手を変え品を変え、気球撃墜に対して抗議している中国の様子を見ると、知られてはならない装置が搭載されていたのではないかと疑ってしまいます。
もう、平常心を失ってしまったように見えてしまいます。
用意周到な中国にしたら、状況判断を誤りました。
経済失速が顕著になり、戦狼外交から微笑外交へと舵を切り、プリンケン国務長官を招聘し、話し合いを持とうとしていた中国にとって、国務長官の訪中延期は痛手です。習近平は、気球のことは、全く、知らなかったのでしょう。

でも、中国に限らず、人間がやることに「完璧」はありません。
ただ、力を持っている国の状況判断ミスは、大惨事になることがあります。
「イラクに核兵器がある」という誤った判断でイラク戦争は始まりました。イラク戦争でも多くの人命が失われました。
KGBとプーチンが「10日で、ウクライナを制圧できる」という誤った判断をして、ロシアとウクライナで、今、数十万人の人命が失われています。
さて、次の状況判断ミスは、どこで起きるのでしょう。

中国人民軍傘下の「中国気球船団」が、状況判断を誤ったようですが、状況判断を誤る可能性のある部署は、中国人民軍の中に無数に存在しています。
中国人民軍という組織は巨大な組織ですから、致し方のないことだと思います。
心配なのは、台湾侵攻作戦での状況判断の誤りです。
ロシアのプーチンが犯した誤りと同じで、台湾侵攻作戦を立案した人民軍の中のどこかの部署が状況判断を誤っていたとすると、中国は、間違った行動を起こす可能性があります。
アメリカ国防省、軍、情報機関で、中国の台湾侵攻を本気で心配している人が増えていると言われています。2024年から2027年という違いはありますが、数年後に、中国の台湾侵攻は行われると心配されています。実現するのかどうかはわかりませんが、アメリカ情報機関が、ロシアのウクライナ侵攻を警告していて(私を含めて、多くの方が信じていませんでしたが)、それが現実となった過去を考えると、この警告は不気味です。
もしも、台湾侵攻作戦の中に状況判断ミスが隠れていたとすると、中国にもアメリカにも、いや、台湾や日本にとって、大変不幸な結果を招きます。
ウクライナ戦争で、ロシア本土やEUに、ほぼ影響がないように、台湾有事の場合も、一部の中国本土を除き、中国本土にもアメリカ本土にも戦火は及びません。実害を受けるのは、台湾と日本です。
台湾や日本の市民にとっては、中国人民軍の一部の責任者が更迭されるだけでは割に合いません。実に、困ったことです。
戦争は、性善説に立って行われるわけではありません。いや、戦争に勝つためなら「何でもあり」が、戦争というものです。戦争になれば、国際条約でさえ役に立ちません。そして、残念なことに、ロシアだけが極悪非道を実践する特異な国だというわけではありません。中国がチベットやウイグルでやっていることを見れば、中国は、今日からでも第二のロシアになれるのです。
ですから、中国人民軍の攻撃が、在日米軍基地や自衛隊基地に限定されるという保障はありません。ロシアがやったようにインフラ攻撃も想定されます。電力・ガス・水道の喪失だけではなく、原子力発電所が破壊されることによる放射性物質の拡散も心配されます。ロシアは、まだ核兵器を使用していませんが、中国が、東京に核ミサイルを撃ち込むことだって否定できません。
では、私達庶民に出来ることはあるのでしょうか。
ありません。
ただ、ただ、耐えることだけです。

気球騒動の後日談になるのでしょうが、アメリカと中国の高官がドイツで会談した内容は、気球問題が主な議題ではなかったようです。ロシアへの軍事支援を具体的に検討している中国に対する警告が、主な議題だったそうです。
確かに、中国にとってのウクライナ戦争は、メリットしかありません。
ロシアの弱体化。
安価な原油の確保。
欧米諸国の武器弾薬の消耗。
世界が不安定化することによる、帝国主義の復活。
ウクライナ戦争を長期化させることで得られるメリットは、中国の一人勝ちです。ロシアを挫折させず、戦争を継続させることは中国の国益になるのです。
ですから、中国は、アメリカの警告に怒っています。「上から目線で、中国に命令するな」と怒っています。
「米国は、真剣に自省し、自らの行いを批判的に検証し、ごう慢さと偏見を捨て、覇権主義的で横暴ないじめの慣行をやめよ」と言っています。そっくり、そのまま、お返しできるような非難を平気でするのが中国流なのでしょうが、つい、笑ってしまいます。もしかすると、これって、中国流のブラックジョークなのでしょうか。


2023-03-04



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