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少子化対策という旗印 [評論]



今日はフィクションを書こうと思います。
もっとも、私が書いているのは、いつも、将来予測ばかりですから、全てがフィクションなのかもしれません。ただ、今回のフィクションは、いかにもフィクションです。笑っていただければ嬉しいです。

某年某月某日、某所で、某会議がありました。
極秘会議であり、その事を知っている人間は限られています。総理大臣も、公邸にいることになっており、総理秘書の一人が総理役を演じるという念の入れようです。
会議の部屋は、窓もなく、何の飾りもない小会議室。テーブルの真ん中にペットボトルが置かれているだけです。携帯電話の電源も切られ、メモを取ことも禁止です。
出席者は、総理大臣と3人の閣僚、自民党議員3人、財務省幹部3人の10名です。
参加者は、挨拶することもなく席に着き、置かれていた資料に目を通し始めた。
最初に口を開いたのは、議事進行をする財務省のA氏です。
「資料は回収しますので、よろしくお願いいたします」
部屋は、ページをめくる音だけしかしない。
「ふう」
最初に資料を読み終えた議員が、大きな息を吐いた。
魑魅魍魎を代表するような政治家と官僚が、小さな部屋で、集中しているせいか、部屋には「泥沼」のような臭気が満ちていた。
全員が資料を読み終えた後に、A氏が発言した。
「忌憚のないご意見を、お願いいたします」
年長の議員が口を開いた。
「これで、うまく、行くのかね」
「いいえ、先生が、上手くいくようにご尽力頂くのです」
別の議員が発言する。
「時期が悪い」
「では、いつなら、よろしいのですか」
「・・・・」
若手の議員、若手と言っても65歳だが、硬い表情で言った。
「少子化対策という手は、いい手だとは思うが、私も、時期が悪いと思う」
「皆さん、同じ意見だと思って、いいですか。この案で押し切ろうという方は、おられませんか」
「・・・・・」
しばらく、沈黙が続いた。
「総理、いかがいたしましょう」
「確かに、時期は悪い。私も、そう思う。しかし、放置するわけにもいかない」
「でも、皆さんは、先延ばしにしろ、と言っておられます」
「弱ったな」
この秘密会議は5回目になる。A氏は、これまで、秘密が守られたことが奇跡のように思えた。もう、限界だと感じている。今日、結論が得られなければ、仕切り直しをしなくてはならない。会議のメンバーには、徹底的にレクチャーした。総理大臣には、個別に、何度も、レクチャーした。金融と財政が危機的状況であることは、政治家も理解しているはずだ。しかし、政治家は動かない。政治家は、国家的危機に対応することよりも、選挙のほうを優先する。
「財務省主導」とか「財務省の陰謀」と騒ぐのはマスコミだけではない。いや、マスコミにリークしているのは政治家なのだ。官僚主導への抵抗感は強い。特に、財務省に牛耳られていると思い込むと、政治家はムキになる。予算が彼等の利権の源泉なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
「どうだろう」
総理が重い口を開いた。
「私に、一任して、もらえないだろうか」
「それは、構わないが、私は協力できない。いや、大きな声で反対することになる。総理の手勢でやるのは、総理の自由です。もちろん、この会議もなかったことにしてもらいます」
「私も、それでいい」
別の議員も、「勝手にしろ」とばかりに、総理の顔を見た。
公式の場では、総理の要望は優先されるように思われているが、それは、あくまでも、根回しが済んでいることが条件になる。この会議も根回しなのだが、失敗に終わりそうだとA氏は、小さくため息をついた。後は、総理大臣の手腕にかかっている。自民党の反対派と野党の反対を抑えての増税は、ハードルが高い。この総理に、それが可能なのか、A氏は、総理大臣の横顔を見た。たたでさえ、党内基盤の弱い人だ。押し切るのは無理だろう。
「わかりました。この会議は、無かったことにしましょう」
皆が、総理の顔を見た。
総理は、腕を組み、目を閉じた。
諦めるのか、強行するのか、A氏にも判断できなかった。
「では、そういうことで」
反対派の筆頭株の老人が立ち上がった。
総理に賛成してくれるのは、一人か二人。
決を取れば、増税案は否決される。
A氏は、総理が、明確に否決されるのを防いだのだと思いたかった。
部屋には、総理とA氏だけが残った。
「済まなかったね、A君」
「いえ、力足らずで申し訳ありません」
「いや、まだまだ、力は貸してもらいますよ」
「勿論です」
実現するかどうかはわからないが、総理は、やる気らしい。
評判の良くない総理だが、この人が、この国を救うことになるのかもしれない。いや、救うことはできないだろう。増税は、ただの先延ばしに過ぎないが、財務省は、何もやらないよりはいいと思っている。
少子化対策を旗印にして増税をするように提案してきたのは総理だった。少子化対策を自分の成果にしたいという願いが、総理を動かしたのだろう。
前回、社会保障費で増税に成功したからと言って、少子化対策で増税に成功するかどうかは未知数だった。でも、他に、旗印がない事も確かなのだから、総理の提案は正しい提案なのだと思い、財務省はその提案に乗った。自分の提案でなければ、総理は諦めていただろう。
日本円が暴落していないのも、日本の国債がジャンク級になっていないのも、日本には徴税余力があると思われていることによる。国民負担率から見ても、日本の徴税余力は限界に来ているのだが、いつまでも増税しなければ、日本には徴税余力がない事を世界に知らせることになる。日本は、見栄を張り続けなければならない。政権が変わっても、この現実は何も変わらない。自民党以外の政党が政権を取っても、増税からは逃れられない。
歪な形ではあったが、これで、消費税増税の方針は決まった。

ここまでが、フル・フィクションです。
何となく決まっていく様子を書きたかったのですが、うまく書けたかどうか。
少子化対策という旗印の増税が終われば、次は、脱炭素税の増税だと言われています。防衛力強化の本格的な増税も待っています。増税は、終わることはありません。なぜなら、国力が成長していないから、税収が増えることはないからです。ここ数年、税収が増えたという宣伝がされていますが、少し長い目で見れば、税収減は明らかになると思います。
国が困れば、国民から搾り取るという構図は、この2000年間、何も変わっていません。国民の皆さんの負担は、今後、ますます厳しいことになります。苛政と言われる「6公4民」の日も、それほど遠い未来の話ではないかもしれません。
ここからは、少し、現実が入ります。
東京都の小池知事が、「全ての、0歳から18歳の子供を対象に、月額5000円の給付金を支給する」と言いました。小池知事は「異次元の・・・」とは言っていません。
その理由は。
今の少子化を看過できない。東京は、いろいろなものが高いから、それを是正したい。給付金は、毎月、給付して、初めて意味を持つ。子育てに所得制限を設けるのは間違っている。ということのようです。
それに対する街の声。
「ありがたい」「5000円じゃなー」「英断だと思う」というものでしたが、総じて肯定的な意見が多かったように思います。ただ、これが少子化対策になるとは思えません。
子育て政策で一歩先を行く明石市の市長も肯定しています。
小池都知事は、「明石市に触発されて」とは言っていませんが、影響はあったと思います。
それよりも、小池知事は、「さあ、岸田さん、どうしますか」と言いたいのではないかと思います。岸田さんは、「異次元の少子化対策をする」と言っていました。「東京が、5000円出したのに、国が・・・・」というものではないかと思います。

少子化対策が風潮になってくれるのはいいことだと思います。
政府が、どんな「異次元対策」を打ち出してくるのかは、今の時点ではわかりませんが、多分、いや、間違いなく、弥縫策しか出てこないと思います。
そもそも、国が子供のために支出する予算は、OECD諸国の中で、下から2番目です。現状が、逆の意味で、異次元の子供対策なのです。もしも、岸田さんが「異次元の対策」を出すのであれば、北欧の国々を追い抜くくらいの勢いが必要になります。そんなこと、不可能です。ですから、最初から、岸田式「異次元対策」は「口先対策」でしかないのです。
国力が衰退する国では、国民の貧困化が進む国では、少子化は避けられません。
国が豊かになれば、国民が豊かになれば、勝手に人口は増えるのです。たとえ、先進国であっても、劇的な人口増加が望めないとしても、微増、或いは、微減であれば可能だと思います。
フランスは、少子化対策に成功した国だと言われていますが、それでも、合計特殊出生率は1.9です。フランスは、まさに、異次元の少子化対策をしました。1993年に、1.6まで低下した出生率を1.9まで回復したのです。しかし、それは、30年前です。日本では、フランスのような異次元対策は出来ないと思いますが、たとえ、同じことをしたとしても、30年前と今では、時代が違いますし、環境も違います。同じ成果が得られるとは思えません。
それと、少子化対策にはカネがかかります。
そんなカネ、この国には、もう、ありません。
もっとも、少子化対策は、増税の旗印に過ぎませんので、少子化対策が功を奏することはないものと思います。
いつも、スローガンばかりで、成果が実ったことはありません。
特に、この30年間では、成果はゼロです。
しかし、国民の皆さんは、「それで、良し」としています。
責任者である国民が「良し」と言っているのですから、それでいいのでしょう。
この国の国力衰退は、誰が見ても、どう贔屓目に見ても、明らかです。
しかし、国民は、自分がドツボにはまるのに、「俺には関係ねぇ」と言っています。
日本国民の皆さんは、ほんとに、救いようがありません。
国力衰退は、もう、原因ではなく、既に、結果になっています。
誰も、その原因を見つけようとしません。
原因には、その原因があるのですが、そんなこと、無関心です。
原因の原因の原因となると、別の惑星の話になります。
国力衰退が結果ではなく、まだ、原因だと思っている一部の人は、構造改革とか生産性向上を提案します。確かに、原因が真の原因なら、その原因を取り除けば、現実は変わります。でも、結果になってしまうと、どう足掻いても、変わりません。新しいものを創造することでしか、埋め合わせはできません。
実務的な、表層的な対応策では、この国の衰退は止まらないのです。
もっとも、私も、昔は、同じようなことを提案していましたから、大口は叩けません。
日本は、崩壊への階段を、また一段、登ることになりそうです。
こんな国で、子供を産み、育てようと思わなくても不思議ではありません。
先進国なのに、その日の食事に困る子供達が大勢います。
しかし、皆さんは、「俺には関係ねぇ」と思っています。
これは、間違っていると思います。
国民の皆さん。
皆さんは、追い詰められているのです。
確かに、じわじわと、ずるずると、何となく、ではありますが、追い詰められています。
この先に、皆さんの未来はあるのですか。
いいえ、ありません。このまま、ずるずると、破滅へと向かうのです。皆さんは、今、破滅への道を歩いているのです。
もちろん、これは、皆さん自身のせいなのですから、文句は言えません。
でも、子供達を巻き添えにするのは間違っていると思います。
もしも、皆さんの目的が、生きる意味が、「子供達の未来を守る」ことであったなら、こんなことにはなっていなかったと思います。
どうか、気付いてください。言葉の定義をして、目的と責務を見つけてください。
これ以外に、「異次元の少子化対策」はないように思えます。


2023-02-04



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