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他山の石 [評論]



中国の数字は、公的な数字であっても信頼性と透明性が希薄で、不都合な数字は堂々と隠蔽することもありますので、中国を分析する時は、空気で類推するしかありません。
そんな中国経済に、更なる不透明感が浮上しています。
特に、不動産部門での空気が悪化しています。
永年、「中国の不動産はバブルで、近々、弾けるだろう」と言われ続けて、何年経過したのかわかりませんが、いよいよ、それが現実になろうとしているように見えます。
中国からは、「バブルだと!! 弾けるだと!! 全然、大丈夫じゃないか。中国を貶めようとするアメリカの陰謀に過ぎない」と言われてきました。
実際に、「弾ける、弾ける」と言われ続けても、住宅は作り続けられ、不動産価格は上げ続けてきました。中国の皆さんも、渦中にいる時は気付けなかったかもしれませんが、今、振り返って見ると、「バブルだったんだ」と認識できるのではないかと思います。
しかし、大手不動産会社の中国恒大集団がデフォルトを起こした頃から空気は変わりました。再建中であるとして発表していなかった決算を発表し、2021年度と2022年度の2年間の純損失は810億ドル(日本円で16兆円)になりました。2022年の負債総額は約48兆円だそうです。さすが中国です。1企業の負債総額が、日本の国家予算の約半分です。
これでも、まだ、中国の不動産バブルは、完全には弾けていないのでしょう。
多分、これからが本物のバブル崩壊の時期になるのだと思います。中国政府の手腕が問われますが、多分、何とかするのでしょう。でも、痛みは免れません。
バブルは、人間の「欲」が引き起こす心理現象だと言われます。
「原子力神話」とか「土地神話」とか「安全神話」と呼ばれる「神話」が数多くありますが、安全ではないから、どれも、神話が必要だったのだと思います。
中国でも、土地神話、住宅神話が、更に、「欲」を膨らませ、住宅価格は天井知らずの上昇をしました。実需の倍以上の投機が、その神話を支えていると言われました。中国政府は、何度も「家は住むもので、投資するものではない」と言ってきました。しかし、中国人は儲け話が大好きです。桁外れに好きです。それが、ここまでバブルを膨らませる原動力になったのだと思います。
今、中国人は、不動産を買おうとしません。今、人気なのは定期預金だそうです。
経済の基本原理を見てみましょう。
「物の価格は、需要と供給が一致する場所で決まる」という原則があります。その原則を、一時的に無視するのが投機ですが、投機も最後は辻褄を合わせます。
需要の倍以上の住宅が、既に、建設されている、という説があります。そうであれば、住宅価格は、この先、現在の半値になるということです。儲け話が大好きな中国人は、損失についても敏感です。住宅を投資対象としている人達にとって、将来、価格が下がるかもしれない住宅に投資しようとする人は、この先も減ります。これ、当たり前のことです。
ここからが、中国不動産バブルの見せ場になるのだと思います。
中国の不動産市場の規模は、GDPの30%あると言われています。これも、真実はわかりませんが、正しい数字だとすると、国の経済にとっても打撃です。
不動産業界は、ただ、マンション建設をしているだけではありません。建物以外にも多くの産業が関連しています。何よりも、住宅建設には多額の資金を必要とし、その資金は借金です。つまり、金融業界が関与しています。そして、少しずつですが、金融業界の不穏な空気も醸成され始めています。このほうが、厄介です。
中国経済がどこまで壊れるのかは、まだ、誰にもわかりません。しかも、確かな数字は出て来ませんから、この先も、実際の壊れ方は推測するしかありません。

さて、「他山の石」という言葉があります。
中国でバブルが弾けようが、経済停滞しようが、他人様のことですから、「どうぞ、ご自由に」と言うしかありませんが、他人様から「どうぞ、ご自由に」と言われるのは、少し、キツイです。
やはり、原理原則は、それなりに尊重しなければいけないのでは、と思います。
中国の「バブルだと!! 弾けるだと!! 全然、大丈夫じゃないか」という空気は、私達にとって「他山の石」なのではないかと思うのです。
日本の「財政破綻だと。馬鹿言っちゃいけない。ここまで借金しても、全然、大丈夫じゃないか」という空気だって、正しいとは言えないと思います。
原理原則を無視しても、いいことなどありません。
中国は、家を作り過ぎて、バブルが弾けました。
日本は、借金をし過ぎて、国を崩壊させます。
どちらも、バランスが取れなくなった時に破綻します。古人は、これを「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いました。これも、人間社会の定説のようです。
厄介なのは、バランスを壊す大きな要因が人間の心理だということです。そして、人間の気持ちは、簡単に、コロコロと変わるものです。
中国の場合、これまで、あれほどの購買意欲を持っていた中国人民が、マンションを買わなくなりました。「損をするかもしれない」という人間の気持ちが、不動産業界を変えてしまったのです。
日本の場合でも、金融機関にカネを預けていたら危険だという環境が生まれれば、債券市場が機能しなくなります。今は、誰もが安心して金融機関にカネを預けています。その安全神話が壊れたら、皆さんはどうするでしょう。何が、その導火線になるのかは見えていませんが、人間心理は思わぬことに反応することがあります。それがデマであっても、風評であっても、人間心理は影響を受けます。
もしも、仮に、多くの国民が預金を引き出したら、金融機関の流動資産は一気に減少します。預金の引き出しに応じるために、他の資産の売却が必要になることもあります。そんな環境では、国債購入なんてできません。
経済活動は、需要と供給があって成り立ちます。どちらが無くなっても駄目です。
債券市場も経済活動の場です。需要の側にいる金融機関が現金不足になったら、債券の購入はできません。つまり、国民の行動が、根拠のある無しに拘わらず、変化したら、国は借金が出来ない環境になるのです。
国債を発行しても応札がないという環境が生まれたとしても、「はい。そうですか」では終われません。国は、何としても、国債を売らねばなりません。
日本国内に資金がないのであれば、海外資金に頼るしかありません。
海外に日本国債を買ってもらうためには、高い金利を提示するしかありません。法外に高い金利を示したとしても、日本の国債を買ってくれる投資家は多くはありません。それは、日本国債がデフォルトする可能性が高いからです。それは、ハイリスク・ハイリターンの市場でしか売買できないということです。
仮に。15%の金利を示して販売したとすると、年間15兆円の負担が生じます。それも、借金をして返すしか方法がありませんので、国債発行額は増え続けます。海外の投資家が、「これ以上、無理だろう」と判断したら、そこで、日本国債はデフォルトします。
日本国債がデフォルトするということは、国債は国民の皆さんの預貯金が原資ですから、皆さんの預貯金がゼロになるということです。

さて、上記の計算式は、ルール通りの時の計算式です。
しかし、日本では、大幅にルール違反をしていますので、計算式を複雑にしています。それが、借金の半分を、500兆円強の日本国債を、円を発行している日本銀行が買っていることです。これは、自分で発行した債券を自分で買って消費しているようなものであり、不正な錬金術であり、フェアではありません。これが許されるのであれば、世界にデフォルトする国なんて存在しないことになります。今は、まだ、国際収支の黒字で「円」は認められていますが、いつか、必ず、このトリックが表面化し、「円」が暴落する日が来ます。
国債のデフォルトだけが国家破綻の原因になるのではありません。
通貨の暴落も、国家破綻の原因になります。
ズルをしたって、どこかでバレるのが、世の常です。

人間には、「慣れ」という心理が働きます。
異常も、継続すると「慣れ」ます。「慣れ」ると、つい、異常を忘れますが、そのダメージは蓄積します。ただ、ダメージはアナログで結果を出しますので、気付いた時には修復できなくなっています。後で振り返れば「異常だったよな」と誰もが認めることでも、「慣れ」があると気付けないのです。毎年、借金を源資として国家予算を組んでいることは、明らかに異常ですが、「慣れ」てしまえば、それが当たり前になってしまいます。
ほんとに、怖いことです。
それを是正するのは、原理原則ですが、人間は、つい、そのことを忘れます。
「ここまで大丈夫なのだから、まだまだ、大丈夫だろう」
これを、助平根性と呼ぶのだと思います。
実際の経済活動は教科書通りにいくわけではありません。
でも、それは、教科書を忘れてしまっていいという意味ではありません。
基本とか良識を忘れて、いい事などないのです。
原理原則は、助平根性でどうにかなるものではないという謙虚さが必要です。
私達は、中国の不動産バブルを笑える立場にいません。
私達だって、借金バブルに浸かっているのです。多分、日本の借金バブルの副作用のほうが、桁違いの激烈な結果を招くことになります。
人間の営みは教科書通りにはいきません。
だからと言って、原理原則を無視してもいいということにはなりません。
やり過ぎの修正には勇気が必要ですが、人間社会では、常に、修正が必要です。
国家運営を担う皆さん、どうか、勇気を持ってください。
国民の皆さん、自分の生活を守るために、行動してください。


2023-09-05



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