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陽だまり 2 [陽だまり]




的場恭介は目黒署の弁護士刺殺事件捜査本部に配置されたまま、必殺処刑人対策本部の一員として働かされていた。それまで相棒だった梅原は別の刑事とコンビを組んで飛びまわっている。不本意だったが、恭介はパソコンに張り付いたまま、本庁のネット犯罪対策本部との連絡係となった。膨大な、余りにも膨大な情報の嵐の中では、風に舞う一枚の木の葉より儚げな存在として、画面を見続けている。
世田谷区の成城にあるアパートの一室から書き込まれた「予告文」で、元々秩序などないネット世界が狂乱というべき暴風に巻き込まれた。予告文が発信されたパソコンの持ち主は、前回と同じで無関係だと判明した。犯人、もしくは犯人グループは他人の部屋に忍び込み、必殺処刑人と名乗って書き込みをしている。パソコンを無断使用しただけで、電気代以外の盗難はなく、警察が手を出す余地もない。学校や会社に通う独身者が都内に何人いるのか。対策を考えるだけ無駄だと言える。発信場所やそのパソコンを割り出す手法は、何の役にも立たないと言うことだ。空き巣の前科を持つ人間がマークされたが、捜査の刑事は違和感を抱いていた。必殺処刑人というテロ集団と空き巣が結びつかない。たとえ、そういう男が手先として利用されていたとしても、何度もできることではないという感触がある。必殺処刑人の文面から推察すれば、近いうちに新たな声明文が出されることになる。もし、そうなれば、空き巣犯をマークすること自体が意味のないことだと言わざるをえないが、打つ手がない以上、上層部は中止命令を出すことはないだろう。警察は完全に後手に回り、テロ集団に馬鹿にされているようなものだった。周辺に設置されている防犯カメラの映像を分析しているチームからも、犯人に繋がるような情報は得られていない。犯人の片鱗も見つけられていないのだから、聞き込みも曖昧な質問しかできない。市民の方から、必殺の情報ですかと聞かれる始末で、捜査員はくさりきっていた。不審者情報というものは、いつでも空振りと相場が決まっているが、泉のように湧き出す不審者情報に警察は振り回されていた。見知らぬ人は、誰でも不審者にされてしまうのが必殺処刑人探しの現実だったが、警察は動かざるを得なかった。
ネットでは、処刑するターゲットを申請した場合の申請者の罪状について論議が盛んだが、ターゲットが処刑された場合は殺人の共犯になるという意見から、これは単なるゲームだから罪には問えないとする意見まで、言いたい放題だった。現実的には迷惑防止条例くらいしか該当しないのではないかという意見が主流になっている。名誉棄損罪で告訴した場合、敗訴した時のダメージが大きすぎるから告訴する人間はいないだろうと予測されている。確かに、脛に傷を持つ人間は告訴などしないと恭介も思う。いかにも正義の使者を気取って鉄槌請負人などというハンドルネームを使ってはいるが、殺人犯の単なる言い逃れにすぎない。こんなことが許されることはありえない。これは、法律や、警察への挑戦状だと息巻く上層部の怒りにも一理あると思っている。問題は、第三の処刑が行われた時に、警察は何を主張するのだろうかと心配になる。今のままでは、その第三の処刑が行われることを阻止する有効な手段を警察は持っていない。
恭介の手が勝手にマウスの操作を行い、画面はスクロールしているが、目は文字を読んでいなかった。何かが引っかかっている。それが何なのか。気持ちが、どこか焦っている。ただの疲れなのだろうか。捜査本部に蔓延している焦燥感なのか。何かが違う。どこかでボタンをかけ違えたような不快感がある。
「的場」
背後に人が立っていることも、名前を呼ばれていることも気づかなかった。肩を叩かれて、恭介は飛びあがった。
「何、やってんだ、お前」
「班長」
恭介の直属の上司である日高警部補だった。
「すみません」
恭介は気をつけの姿勢を取った。
「休憩しろ。役に立ってない」
「はい。いえ。大丈夫です」
「馬鹿野郎。ついてこい」
日高警部補に連れられて、刑事課長の前に行った。
「課長。的場をちょっと、借りますよ」
「おう」
「こい」
恭介は日高警部補の後ろを悄然として歩いた。明らかな失態だった。
自販機でコーヒーを買った日高に連れられて、2階の休憩室、別名たばこ部屋に入った恭介は日高の前で直立不動になった。
「ほい」
缶コーヒーを渡された。日高は缶コーヒーのプルを引く前にたばこを口にした。ヘビースモーカーでニコチンが切れると機嫌が悪くなる。
「飲め」
「はい」
「肩の力」
「はい」
「疲れてるのは、お前だけじゃない。気にすることはない。頻繁に休憩をとれ。椅子に座ってるだけでは、何の役にも立たんだろ」
「はい」
「こんな事態は初めてだ。目黒署にとってだけじゃない。警察にとっても、国にとっても初めての体験なんだ。開き直るしか手はないだろう。俺たち警察はゲームには慣れてない。あいつら、オタクの方が一枚も二枚も上手なんだ。気にするな。俺たちは俺たちのやり方でしか、できん。あいつらのペースに巻き込まれたら、負けるぞ。いいか、開き直れ。それしか突破口はない」
「はい」
「わかったら、コーヒー飲んで、もう一踏ん張りしてこい」
「はい」
確かに、相手のペースで事態は動いている。恭介だけではない。警察全体の足が浮いている。日高警部補の言ったように、開き直りが必要かもしれない。何でも疑ってかかるのが刑事の習性だ。よし。疑ってやろう。自分の席に戻って画面を見た。今までと何かが違う。自分の土俵から見たネツトの世界は、新しい顔をしていた。
「出ました」
恭介は大声で叫んだ。17時08分。パソコンの後ろに人垣ができた。恭介は本庁の対策室へ電話を入れた。対策室も同時刻に確認していた。
「必殺処刑人からのお願い。
 前回、予告文でお知らせしましたが、次の要領で申請の受付を行います。
 1 悪行を重ねながら、何の罪に問われることもなく、更に悪行を重ねている奴がいる。
   そんな奴を我々が処刑します。
   申請の内容は次の4項目
氏名
   年齢
   住所
   悪行の告発
   (注)悪行はできるだけ具体的に書いてください。
 2 申請の受付時間
   17:10 より 17:20 までの10分間。
 3 受付場所 
   下記URLの掲示板
   http/xxxxxxxxxxxx
   http/yyyyyyyyyyyy

注意事項
その1 申請案件の全てに対応するわけではありませんし、申請内容を精査しますので、即刻処刑するわけではありません。
 その2 処刑申請は自己責任とします。
     申請者の所へは警察が殺到することが予想されます。自分の身は自分で守っていただきます。罪に問われる可能性も排除できません。
 その3 申請内容に虚偽があった場合、申請人を捜し出し、処刑リストに書き込みますので注意してください。
 鉄槌請負人」

「上の掲示板に行きます」
恭介は大声で宣言し、URLをクリックした。そこは「園芸と話の広場」というホームページだった。
少し離れた場所にいるネット監視班の別の刑事が、下のURLに行くと叫んだ。
発見後、2分と経っていないのに、掲示板には書き込みが始まっている様子だった。画面の動きが鈍くなった。処刑依頼だけではなく、反論や応援メッセージもある。この百花繚乱がネットの特徴で、読む側を含めてごった煮にしてしまう。誰もが関係者であり、誰もが関係者ではないという構図ができあがる。どんな発言でもできるが、裏返せば無責任な発言も許されることになる。真面目な警察官から見れば、不快を無理矢理呑み込まされたような生理的嫌悪感を感じてしまう。恭介もこの手の人種は苦手だった。
警察にとっては、この必殺処刑人と名乗る集団を逮捕することが最優先の課題だったが、個人的には、あるいは警察の一部では、処刑依頼の申請書に興味をもっている人間がいることも確かだった。処刑対象者は悪人に限るという条件がある。悪人に一番関心を持っている組織が警察という組織なのだから、当然のことかもしれない。これを、一種のタレこみ情報だととらえれば、それなりに価値ある情報になる可能性を秘めている。だが、その密かな興味を表面に出せば、警察と言う組織を危うくすることになると言うことも警察官はわかっていた。何が何でも毅然とした態度で犯罪者を逮捕しなければならない。恭介もそのことを強く意識していた。
受付時間は10分間とされていたが、書き込みも更新も終わる気配がない。二つのホームページが閉鎖されたのは五時間後だった。事前に根回しもあり、逮捕という強権を振りかざした結果だと思われるが、五時間は長かった。だが、該当ホームページの閉鎖は情報の閉鎖と同義語ではない。書きこまれた処刑申請書は別の場所で次々に復活をし始める。それを止めるためには、全ての回線を閉鎖する必要があった。
二つのホームページを訪れた人数は膨大な数で、発信者特定の作業は事実上デッドロックがかかった状態だった。時間が経つに従って、ネット人口は増え続けていると思える。有名な掲示板を持つホームページへのアクセスは不可能に近い。たとえ、ホームページに入れたとしても、記事を呼び出すには長時間待たされる。設定されているサーバーの処理能力を大きく超えて、手の打ちようもない状態になっているのだろう。目黒署でも、一台だけ接続状態にしたまま、一斉休憩に入った。
ネット上の騒乱は、今まで新聞もテレビも見て見ぬふりをしてきたが、さすがに無視できない状況になっているようで、ニュース番組での言及が増えている。警察がどんな発表をするのか、どんな取締りをして、いつ犯人を逮捕するのか注目されている。さらに言えば、既に社会不安の様相を呈している状況に国がどう対応するのかも問われることになる。恭介が処刑依頼の文面を読んだ限りでは、ターゲットと名指しされたのは悪人半分、誹謗中傷の対象となった善人半分と思われる。嘘八百が8割だとすると、全体の中におよそ1割の悪人が存在していることになる。これは、驚きの数字であった。全体の件数が不明だが、市民がこれほどの数を悪人として、私的告発をするとは思ってもいなかった。警察のブラックリストに載っている人間もいると思われるが、ノーマークの人間も大勢いると考えなければならない。犯人は、どうやって次の犠牲者を決めるつもりなのだろう。
上層部の人間には寝る時間もないだろうが、捜査員は方針が決まるまで動きがとれない。待機などさせずに、帰宅させた方が士気は上がると思うが、署長にはその勇気がないようだった。帰宅優先組を自称する恭介も、前回帰宅したのは4日前だったので、娘の顔が見たかった。眠れそうにないので、恭介は刑事課のある二階に向かった。午前零時を過ぎているのに刑事課には日高班長と室井先輩がいた。捜査本部ができたからといって、日常的に発生する事件がなくなったわけではない。限界まで人数を捜査本部に持っていかれているので、刑事課にも寝る間がないことになる。
「的場。早く終わらせてくれよ」
室井が大声で悲鳴を上げた。
「はあ」
「どうした」
日高班長の顔には疲労が滲み出ていた。
「はい。一斉休憩です」
「まだ、待機か」
「はい」
「なんか、見込みはあるのか」
「いえ。全く、ありません」
「そうか」
「忙しい、ですか」
「そりゃあ、この人数じゃ、回らんよ」
「はい。すみません」
「お前が謝ることじゃない」
「でも」
室井が席を立って、やってきた。
「的場。茶、入れてくれ」
「はい」
恭介は三人の湯呑にお茶を入れて戻った。
「コーヒーより、お茶だよな」
「ええ。初めて刑事課のお茶が美味しいと思いました」
恭介は事件の経過を簡単に説明した。
「つまり、手も足も出ないって、ことか」
「まあ」
室井の声には落胆の色が隠せない。その気持ちは恭介も一緒だった。
「班長。これって、ホンネタなんでしょうか」
「ん」
「なんか、変だと思うんです」
「何が、だ」
「あの必殺処刑人は、誰かの悪ふざけなんじゃないかと思うんです」
「でも、犯行声明も、凶器のナイフのこともある」
「そうなんですが、どこか、腑に落ちないんです」
「刑事のカンか」
「いえ。自分なんか、まだまだそんなことが言える立場じゃないです」
「でも、お前はそう思う」
「ええ。ずっと、なんか変だなと思ってたんですけど、班長に開き直れと言われて、画面を見てると、何か、全部が嘘っぱちに見えてきたんです。俺たち、全然別の道を走ってるような気がして」
「そうか。変か」
「はあ」
「会議で、意見を出したのか」
「とんでもないです。俺みたいな若造の出る幕はありませんよ」
「ん。お前なら、どうする」
「現場に戻るという意味では、弁護士刺殺事件です。今は、あの処刑人とやらのことばかりですけど、元の事件に戻ることが必要だと思います」
「そのこと、一度、課長に話してみろ」
「できませんよ。パソコン係から逃げ出したいと言ってるようなもんですから」
「パソコン、嫌か」
「決まってるじゃないですか。あんなことしてたら、病気になりますよ」
「お前の歳で、それを言うか」
「歳は関係ありません」
「だったら、方法を見つけることだ。本庁からも人が来てる。課長の立場を考えたら、俺からその話を持ち出す訳にはいかん。だが、一人くらい別の道を走っている奴がいてもいいんじゃないか」
「はあ」
確かに、パソコン監視役は願い下げだが、恭介の中には警察官として不純な動機も隠されている。班長にも言えないが、外回りになれば、帰宅のチャンスが増えるのではないかという期待だった。
翌日、恭介が思い切って課長に相談を持ちかけると、簡単に許可が出た。それは、あっけないほどだった。相棒は交通課から人数合わせのために捜査本部に来ている、佐竹巡査という若い婦警だった。
「よろしく、お願いします」
「こちらこそ。婦警さんと組むのは初めてです。なんでも言ってください」
「私も、愛妻家の刑事さんと組むのは初めてです」
「これは、どうも」
「私、結構、怒ってます。何で、私が捜査本部なのか、意味わかりません。的場さんに怒ってる訳ではありませんから、気にしないでください」
気の強そうな婦警にぶち当たったようだ。でも、メソメソされるよりはいい。
青梅の坪井さんの息子から貰った手紙にあった九鬼という人物を捜すことから始めるつもりだった。
「遊園地の近くに住んでいる、又は住んでいた九鬼という人を捜します。遊園地の名前も九鬼さんがどんな人かもわかりません。当時、幼稚園児だった坪井さんという人のかすかな記憶だけが頼りで行きます。気楽に行きましょう」
「はい」
「これが、遊園地のリストです。25年前にはあった遊園地も入っています。近くの交番から始めて、役所にいきます」
「了解。的場さんって、いつもそんな丁寧な言葉なんですか」
「年下の人と組むのは、初めてなんです。それと、婦警さんと組むのも」
「大丈夫ですよ。私、打たれ強い方ですから。ばんばん言ってください」
「どうも」
私服の婦警は、いつもと感じが違う。制服を着て、チョークを持っていた方が安心できる。
4日かけて走り回ったが、九鬼という人物は見つからなかった。珍しい名前だから、一度も九鬼という名前に出くわすこともなく、ただの徒労に終わった。
「私の実家の近くにも遊園地ありますよ」
「どこです」
「よみうりランドと向ケ丘遊園」
「神奈川ですよね」
他県の場合は、問い合わせを入れるか、断りを入れる必要がある。
「ええ。でも地図で調べるぐらいは、いいんじゃないですか」
「地図」
「ほら、一軒一軒、家の名前が書いてあるやつ」
「ああ」
「あの地図、実家で見たことがありますけど」
「見てみたいですね」
「じゃあ、行きましょう」
「えっ、すぐに、ですか」
「他に、行く所があれば、今日でなくても。でも、私、しばらく実家に帰らせてもらえませんよね。暇になれば、帰って取ってきますけど」
「そうですね。今から、行きましょうか」
「了解」
二人は小田急で登戸に向かった。川を渡るだけで、面倒な手続きがいるというのも考えものだと思う。佐竹巡査の実家では母親に歓迎された。
「母さん。これは仕事だし、この人は妻帯者。交通課の上司でもないの。地図が見たいから寄っただけ。いい」
久しぶりに娘が帰って来て喜んだだけではなかったようだった。女は早く嫁にいった方がいいと信じている母族の一人なのだろう。彼氏ではないと言われたのに、茶菓子を持って来てくれた母親は愛想がよかった。
「お母さん。ほんとにお構いなく。佐竹さんの言うように仕事ですから」
「はいはい。ごゆっくり」
佐竹が地図を2冊持って戻ってきた。
「最新のと、少し古いのとあります。私、向ケ丘遊園の方を捜します」
「了解」
「それ、私のセリフ」
二人は地図に没頭した。その直後に、佐竹が悲鳴のような声を出した。
「きゃあ、あった」
「えっ」
「こ、これ」
佐竹の震える指先には、九鬼の二文字があった。
「やりましたね、佐竹さん」
「はい。すごい」
4日間空振りばかりだったので、佐竹の興奮は恭介にもよくわかった。二人一組での行動という規則のためだけに捜査本部に放りこまれた交通課の巡査は、刑事の後ろを歩くだけが仕事だった。小さな発見だったが、初めて、捜査の仕事を自分の手でやって、その成果が自分の目の前にある。その興奮は恭介にも体験があった。
「ここからだと、何分かかりますか」
「えええと、20分、か、30分」
「行ってみましょう」
「はいっ」
佐竹の地元なので、道案内は佐竹の仕事だった。弾むように歩く佐竹からは興奮がこぼれ落ちているように見えた。
「私、刑事になっちゃおうかな」
「あれ、交通課が好きだったんでしょう」
「交通課もいいけど、刑事課も」
「刑事課にいくと、お母さんが悲しみますよ」
「へっ、どうして」
「お母さんの望みは、佐竹さんの結婚なんでしょう」
「ああ、それね。でも、結婚なんて縁でしょう。課は関係ありません」
「佐竹さんって、何でも一生懸命になるタイプでしょう。刑事課は、そういう人間を呑み込んじゃいますよ。結婚より仕事になったら、困るでしょう。お母さん」
「もう」
「僕もまだ新人ですから、偉そうなこと言えませんけど、先輩に言われたことが、今はよくわかるんです。刑事課の仕事は99の無駄を足で稼ぐ仕事だそうです。事件が解決すれば100になりますけど、ずっと99の時もある。最後の1を求めて歩き回るのが刑事課の仕事だと言われました。この九鬼さんの件でも、事件の真相に繋がる可能性はごくごく小さいと思います。でも、これが、最後の1かもしれない。つまり、刑事課の仕事は果てしない道に迷いこむようなものなんだそうです。結婚、遠くなるような気がします」
「的場さん。私、今、最高の気分なんです。水を差すようなこと、言わないでください」
「ごめん」
「大丈夫ですよ。私なんかが刑事にはなれませんって」
「いや。刑事に向いていると思うから、心配なんです。お母さんの顔がちらつくんです」
「もう。結婚の話はなし。捜査。捜査」
「了解」
「こら」
臨時の相棒だが、いいコンビになれそうな気がしていた。
九鬼という人物の家は広い敷地に建つ古びた洋館だった。表札の類はどこにもなく、まるで無人の廃屋に見えた。門にも玄関にも呼び鈴やブザーがなく、恭介は玄関ドアをノックした。応答はない。しばらく様子を伺って、ノックする。留守かもしれない。だが、念のため三度目のノックをすると、女の声が聞こえた。
「どちらさまですか」
「あっ、突然お邪魔してすみません。目黒警察署の的場と言います。お聴きしたいことがありまして、お邪魔しました。ここは、九鬼さんのお宅ですよね」
ドアが細く開けられて、目が見えた。恭介は相手によく見える場所に移動して、バッヂを開いて見せた。
「怪しいもではありません。警察のものです」
ゆっくりとドアが開き、若い女の姿が見えた。20代中頃の整った顔をした女だった。
「すみません。驚かしてしまったようですね」
「なにか」
「九鬼さんのお嬢さんですか」
「いえ。家内です」
「奥様」
坪井の情報から、九鬼という男は60代の男だと想像していた。頭の中で、妻と名乗る女との歳の差を計算していた。女は天を仰ぎ溜息を洩らした。
「九鬼の家内です」
「あの。はい。すみません。奥さん」
「結婚詐欺かなんかの調べですか」
「いえ。とんでもありません」
「じゃあ。歳の差がある結婚は法律違反なんですか」
「いえ」
「ご用件は」
「ご主人は」
「主人は、亡くなりました」
「へっ。あの」
「今度は殺人容疑ですか」
「いえ。そんなことは」
「刑事さん。噂の真相究明ですか」
「噂」
「財産目当てで結婚して、夫を殺した悪妻がいると聞いてきたんですか」
「いえいえ。とんでもありません」
「もう、いいですか。こんな訪問は大変不愉快です」
「すみません。態度が悪かったら謝ります。申し訳ありませんでした」
恭介は腰を90度に折って、頭を下げた。後にいる佐竹も頭を下げているようだ。
「用件を、言ってください」
「はい。ご主人の九鬼さんが有名なコレクターだと聞いたものですから」
有名も嘘。コレクターも情報なしだったが、この経緯では多少の嘘は仕方がない。
「コレクター」
「はい。生前、九鬼さんと親交のあった青梅の坪井さんの息子さんからお聞きしました。ナイフのコレクターだったんじゃないかと」
「ナイフ」
「何か、お聞きになってませんか」
「いえ。初めてです。主人がナイフを集めていたんですか」
「はあ」
「いつ頃の話ですか」
「ええと、ざっと25年前ですけど」
「25年。私ではわかりません」
「九鬼さんのご親戚とか、ご友人とか、いませんか。25年前のことを知っていそうな人」
「さあ。付き合いのある親戚はいないと言ってましたし、友達の話も聞いたことありません」
「いつ、お亡くなりになったんですか」
「5年前です」
「だったら、何か遺品のようなものありませんか」
「遺品」
「倉庫の奥に、昔の収集品が残ってるとか」
「いえ。見たことありません。警察の方ですよね」
「はい」
「ほんとに、警察の方なんですか」
「はい」
「だったら、110番で確認してもいいですよね。お名前教えてください」
恭介は慌てて名刺を差し出した。
「できましたら、そこで確認していただけますか」
「はあ?この名刺が偽物だったら」
「えっ」
「110番じゃ、いけないんですか」
「わかりました。110番で結構です」
110番では神奈川県警に接続され、目黒署の刑事が県警に無断で動いていることがわかってしまう。だが、疑いを晴らすためには腹を括るしかない。
「じゃあ、そのまま、後に五歩下がってください」
「へっ」
「偽警官なら、私に襲いかかりますよね」
「いえいえ。下がります」
恭介と佐竹は歩調を揃えて、五歩下がった。
「電話、してきます」
女はドアの向こうへ消えた。恭介はその場にしゃがみ込みそうな疲労を感じた。
「しっかりした人ですね」
「ああ。県警に電話しなきゃならなくなった」
「でも、歳、離れ過ぎですよ」
「ああ。そのことが向こうにも伝わった。修業不足だな」
「普通、びっくりします」
「佐竹さんに慰めてもらってる僕は何なんでしょうね」
暫くして、女が出てきた。
「ここに、確認しました」
女が名刺を振って見せた。
「はい。どうでした」
「偽物ではないそうです。でも、100パーセント信用したわけではありませんよ」
「はい」
「ここではなんですから、中に入ってください」
「すみません」
「拳銃とか、持ってませんよね」
「もちろんです」
二人は食堂に案内された。
「紅茶しかありませんけど、いいですか」
「いえ、お構いなく」
「私が飲みたいんです」
「はい」
出された紅茶を三人ですすった。
「で、九鬼の親戚とか友人の話でしたっけ。いや、物置の奥に隠している物の話でしたね」
「いえ。隠してるんじゃなくて、放置されているものです」
「ええと、的場さんでしたっけ」
「はい」
「警察の方ですから、調べればわかると思いますが、主人は昔、傷害で服役しています。刑務所から帰って来て、主人は昔の物を全部捨てたと言ってました。私が遭った時の主人は、優しいだけの人でした。昔の話を聞いて、びっくりしました。乱暴者で有名だったそうです。だから、うちには古いアルバムもありません。どんなお友達がいたのかも、私には教えてくれませんでした。優しい人で、私を大事にしてくれましたし、私も主人のことを心から愛していました。噂では悪女のように言われているのを知っています。でも、私たち二人は幸せだったと思っています。有名なナイフのコレクターだとおっしゃってましたが、私は見たことがありません。物置はありますので探してもらってもいいですよ」
「わかりました。念のため、後で物置を見せていただけますか」
「どうぞ」
「こういうナイフを捜しています」
恭介は殺害に使われたナイフの実物大のコピーを見せた。
「さあ」
「何か思いだしたら、名刺の番号へご連絡頂けると助かります」
「はい」
物置を見せてもらったが、園芸用品が入っているだけで、古い物はなかった。
恭介と佐竹は、口をつぐんで駅まで歩いた。細い糸でしかなかったが、九鬼が故人になっていることで凶器の線は切れてしまった。手さぐりで新しい道を開拓しなければならない。必殺処刑人と2件の殺人事件は別のものだと決めつけて捜査の許可をもらったのだから、そのことは外せない。そうなれば、被害者と犯人の間には、必ず接点がなくてはならない。無差別殺人でもなく、物盗りでもない。被害者の過去を辿ることしかないだろう。先ずは被害者に関する報告書を読み、その続きを捜査することだ。
翌日、恭介と佐竹は被害者遺族である弁護士の妻に面会の約束を取った。
「何度も、いろんな刑事が、同じようなことを聞いてると思います。恐縮ですが、また、お願いできますでしょうか」
事件前に会ったことはないのでわからないが、奥さんの様子は疲れているように見えた。
「刑事さん。主人はあの処刑人とかいう連中に殺されたんですか」
「いえ。私は違うと思って捜査をしています。今日お邪魔したのも、そのためです」
「そうですか。主人が極悪人みたいに言われるのは、変ですよね。そりゃあ、多少外れたことはしてたでしょう。清廉潔白とは言えないでしょう。でも、あんな風に言われるのは酷いと思います」
「ええ。奥さんの言われること、私にはわかります」
「実はね。片付けをしていたら、こんな物が出てきたんです。警察の方、どなたも来なくなりましたのでね」
靴箱に入っていたのは、10冊以上の手帳だった。警察は被害者の家も捜索している筈である。見つけられなかったことは問題だった。
「どこに、あったんですか」
「靴棚の奥に」
「そうですか。これ、お預かりしてもよろしいでしょうか」
「ええ」
「それと、何か思い出されたことはありませんか」
「もう、全部、話しました。他にはありません」
恭介は預かり証を書いて、靴箱を抱えて弁護士の家を出た。新しい糸口が見つかりそうな予感がした。




処刑申請の受付をしてから、一週間が過ぎた。
「驚きました。こんなに来るとは思いませんでした」
「私も」
「いい加減なのも、いっぱいありますけど」
「ええ。ひどいのがあった」
「このデータ、どうするんですか」
「まだ、何も考えてないの」
「ほんとに、皆、信じてるんですかね」
「実はね、次のターゲットになっている三浦信孝の名前があったの」
「えっ」
「だから、裏ルートは必要なくなった。必殺処刑人の仕事にできる」
「そりゃあ、すごい」
「私は三浦の調査に専念する。ネットは、しばらくお休み」
「へええ、こんなことがあるんだ」
「ただ、一寸、気掛かりなことがあったの」
「どうしたんです」
「刑事が来たの」
「刑事」
「目黒署の刑事が二人」
「まさか」
「九鬼の古い友人の息子から、九鬼がナイフの有名なコレクターだと聞いたと言っていたわ。ほんとかどうか、わからないけど、ここに来たということは、情報があったということだと思う」
「で」
「私が結婚した時には、そんなものはなかったと言っておいた。九鬼は、過去と決別するために、あらゆるものを捨てたと言ったことがあるの。実際に古い写真は一枚もないし、手紙もなかった。ナイフは捨てられなかったみたいだけど」
「刑事は信じました?」
「わからない。物置も見ていったけど、私にナイフの写真を見せたのは、ただ情報が欲しかっただけだと思う」
「そうか。ナイフの出所を捜してるんだ」
「だと、思う。あのナイフは売ってないから、過去に持っていた人を捜すしかない。そういう捜査だったと思う」
「警察もやるもんですね」
「でも、どちらが、より真剣かということだと思う。私は負けない」
「ええ」
「刑事が最後まで気にしてたのは、私と九鬼の歳の差だったみたい」
「そうですか。でもご主人は、どうしてナイフを捨てなかったんでしょう」
「最初にナイフを見た時は、怖いと思ったけど、今は、美しいと思う。九鬼がナイフを捨てられなかった気持ち、今ならわかる」
「僕は、まだ、怖いと思う」
「そうよね」
「突然、刑事が来て、びっくりしたでしょう」
「最初は、ね。自分でも不思議なんだけど、すぐに開き直ってた。怖い女だなと思った。もう一人の刑事がどう思ったのか、ちょっと心配」
「・・・」
「もう一人は、女の刑事だったの」
「なるほど。でも、女のことは、僕にはわかりません」
「須藤さんは、女が嫌いなの」
「いや。苦手です」
「私も?」
「九鬼さんのこと、女だとは思ってませんから、平気なんです」
「ありがとう」
須藤が帰った後で、和子は刑事の訪問について、もう一度考えてみた。問題はないと確信しているが、ゆったりと構えているわけにもいかない。気を引き締めて、次の行動に移ろうと思った。
一年前から、三浦の身辺調査はしていた。三浦の妻から依頼されたと言って、探偵社に浮気調査の名目で調べてもらった。その報告書には行動の全てを書くように指示した。同じ依頼を次々と三軒の探偵社に依頼し、その調査結果を基に自分の足でも尾行をした。どの探偵社も三浦の浮気を立証してくれたので、探偵社の人間は、もう離婚が成立していると思っているに違いない。和子は新しい探偵社に、三浦の浮気調査を依頼した。たとえ、必殺処刑人のリストに載せられても、警察が全員に監視をつけることは不可能だと思いたい。
一か月後、探偵社の行動調査が終わり、化粧とかつらと眼鏡で別人になりすまし、探偵社の人間と会って、料金を精算し、分厚い報告書を手に入れた。須藤が襲撃する場所を見つけなければならない。以前から監視カメラに写らないように行動してきたが、須藤に実地訓練をしてもらったので、さらに自信をつけることができた。
三浦は大島建設という大手ゼネコンの企画室次長という要職にいる。勤務時間中に襲撃するような隙はない。出張も度々あるので、判を押したような行動ではなかった。自宅は豊島区にあるが、週に一度は杉並のマンションを訪問する。浮気相手は何人もいるが、杉並のマンションにいるのが浮気相手かどうかわからない。分譲マンションなので、探偵社の人間もマンション内部には潜り込めなかったようだ。三浦は用心深い性格のせいか、マンションにタクシーで乗りつけるようなことはしない。そして、人通りの少ない道を好んで歩いている。やましいことをやっているという意識は充分にあるようだった。
和子は須藤を連れて下見に出かけた。マンションの近くにある公園横の道路は夜になると車の量も人通りも極端に少なくなる。監視カメラがある様子もなく、絶好の襲撃場所になりそうだと須藤も同意してくれた。須藤は独りで車を降りて、住宅のチェックをしている。最近では一般住宅でも監視カメラを付けている家があるからだ。
「ここなら、大丈夫でしょう」
「ええ」
長居は無用だった。過去の不審車両として記憶されたくはない。打合せは走る車の中で始めた。
「あのあたりを第一候補にしましょう。成功した時の逃走経路と、失敗した時の経路を見つけるために、僕は何度か来なくてはなりませんが、九鬼さんは念のため行かない方がいいでしょう。確信が持てるまで、下見をします。その間に状況が変われば別の方法を考えなくてはなりません。それでいいですか」
「もちろんよ」
「三鷹、もしくは調布に中継点を作ります。九鬼さんは、そこから家までの道路でNシステムのない裏道を探してもらえますか。できれば、橋も」
「はい」
「杉並と中継点の間は盗難車を使います。僕はそのまま府中か立川に盗難車を捨てに行きますので、九鬼さんは、三浦を乗せて、中継点から裏道を使って川崎に戻ってください。もちろん、三浦は無力化しておきます。殺しちゃ駄目ですよ」
「はい」
Nシステムのカメラは道路の真上に付いているとは限らないから注意するようにということも言われた。いわゆる逃走時の心得を須藤はわかりやすく説明してくれた。
一ヶ月後に、須藤は大きな旅行カバンをもってやってきた。海外旅行に持っていくカバンの中でも、特に大きなものだった。
「三浦は小柄な男だと言ってましたよね」
「ええ」
「僕ぐらいなら、この中に入れます」
「ああ」
「電動ドリルありますよね」
「ええ。地下室に」
「穴を開けます。窒息されると困りますから」
地下室でカバンの中から須藤が取り出したものは、特殊警棒、催涙スプレー、スタンガン、手錠、ロープ、ガムテープといった襲撃用品と2足のスニーカーだった。須藤はどれも買ってきたのではないと言った。須藤はどこまでも用心深い。そして、真剣だった。
それからの一か月、二人は逃走経路の検討を積み重ねた。須藤の用心深さは半端なものではなかった。そして、中継地点も襲撃地点も決まった。
襲撃の当日は小雨の降る夜だった。須藤は公園の中に潜んでいる。和子は須藤からの合図を待っていた。催涙スプレーを使うので、ゴーグルに近い眼鏡とマスクで顔を隠し、帽子を被っているが、遠目からでも女とわかるようなスカートとハイヒールだった。日中であれば不審者だった。バックにはすぐ取り出せる場所に催涙スプレーが入っている。
携帯電話が震動した。
「行きましょう」
「はい」
緊張感はあったが、躊躇はなかった。和子は傘を開いて、道路に足を踏み出した。
遠くに人影がある。自然な歩調で歩いた。
襲撃地点が近づいてくる。須藤の方にトラブルはなかっただろうか。傘で顔を隠したまま、歩調を維持して進んだ。
右手をバックに入れてスプレーを握った。三浦の傘の内側から発射したい。
和子は至近距離から催涙スプレーを発射した。
「うおお」
傘を放り投げて、三浦がしゃがみ込む姿を目の端にとらえながら、和子は歩調を速めた。公園から出てきた須藤とすれ違う。手には警棒が握られていた。
車に乗り込み、ゴーグルをはずしてエンジンキーを回した。
公園の横に蹲る二つの影の前に車をつける。ハッチバックのドアが開き、車体が揺れる。和子は前方と後方を監視した。
ドアが閉まる音がして、車の窓ガラスを叩く合図と同時に発進した。
和子の任務は中継地点の三鷹まで、安全に運転することだった。
中継地点に決めた自動車工場の近くにある空き地に車を乗り入れた。駐車しておいた和子の車の横に停めて、運転席を降りた。古いブロック塀があって、車道からは見えない場所になっている。カバンを下す須藤に手を貸した。
荷物を積み替え、先に和子が空き地を出発した。五分後に須藤が出ていく計画になっている。二人は一度も会話をしなかった。お互いに自分の役目に専念する。これも重要な計画の一部だった。
まだ、計画が終わった訳ではない。事故や交通違反はあってはならない。
慎重な運転をして、やっと自宅の裏庭に車を乗り入れた。襲撃開始から、ほぼ2時間。さすがに疲れていた。
三浦が生きているのかどうか、確認したいという気持ちを抑え、車を降りて裏口から家に入った。須藤の帰りを待つ計画になっている。須藤は電車で帰ってくるので、まだ暫く時間がかかる。和子は計画にはなかった夜食を作ることにした。一晩ゆっくり寝てから、三浦から話を聞く。そんなことが出来る筈もない。今日は徹夜になるだろう。
二人で夜食を食べた後で、カバンごと地下室に運び、須藤が目出し帽を被ってカバンを開けた。三浦は意識を取り戻していて、二人を睨みつけた。須藤は無言でカバンをひっくり返して、三浦がカバンからこぼれ出るのを見守った。後ろ手に手錠が掛かっているので、不自然な動作で起き上がった三浦の口からガムテープを勢いよく取り外した。スプレーの成分がのこっているのか、涙目で睨みつける。
「お、お前たち、なんだ」
「こんなことして、ただでは済まんぞ」
「何とか、言え」
須藤が棚から警棒を取り、ひと振りした。カチャと音がして長くなった警棒を三浦の眼前で一閃した。その音に三浦は息を飲んだ。
「大島建設企画室次長の三浦信孝。間違いありませんか」
「そうだ」
「だったら、この女性に見覚えありませんか」
「知らん。会ったこともない」
「そうですか。名前を聞いたら思い出しますよね。紺野奈津さんです」
「こんの、なつ」
「そうです」
「奈津、か」
「思い出したようですね」
「坂東と本間をやったのは」
「そうです。あの二人は強気を通して、命を亡くしました」
「必殺」
「ええ。必殺処刑人は我々のことです。事情は呑み込めたようですね」
「私を、どうする気だ」
「お話を、お聞きしたい。坂東も本間も最後まで我々を見くびっていました。人殺しなどできるわけがないと思ってたようです。あなたは、どうしますか」
「まあ、落ち着きなさい」
「大丈夫です。我々は落ち着いています。落ち着いている場合でないのはあなたです」
「そうじゃない。話し合いを提案している」
「ほう」
「先ず、この手錠を外してもらいたい。フェアじゃないと思う」
「で」
「君たちのことは、全て忘れる。今日のことも、坂東と本間のことも、全部呑み込んで墓場まで持っていく」
「ほう」
「確かに、奈津には悪いことをしたと思っている。だから、慰謝料を払う。五千万だ」
「で」
「だから、君たちは、私をここから解放する」
「話し合い、と言うより、取引ですね」
「そう、とってくれてもいい」
「違うんです。僕たちは、あなたの話が聞きたいんです」
「五千万だぞ」
「あなたの話は、その五千万より価値があるんです」
「馬鹿な」
「話を聞かせてくれたら、手錠も外しますし、警察に駆け込んでもらっても結構です。もちろん五千万も払う必要はありません。でも、そうでない場合は、あなたもあの二人と同じように、いや、違うか、あなたは首謀者ですから、簡単に死なせるわけにはいかない。結果は同じですけど、殺してくれと言うまで痛めつけて殺すことになります。これが我々の条件です。簡単でしょう。あなたは、洗いざらい話すだけでいいんです」
三浦は須藤を見上げたまま、何も言わなかった。
「あっ。もう一つ、言い忘れていました」
須藤は棚のところに行って、缶を手にして戻ってきた。
「これ、何だかわかりますか」
「・・・」
「そうです。ガスボンベです。炎の温度は1500度ぐらいだと思います。あなたの話、僕たちが信じられないな、と感じた時に使う拷問道具だと考えてください。火傷は、その時も痛いけど、後からじわじわ痛みが来ますよね。体の何パーセントが火傷すると死ぬのか知らないんですが、やり過ぎて死んだ時は許してください」
須藤はボンベのスイッチを引いて炎の調節をした。
「三浦さん。あなた、今、頭の中で、この事態をどうやって乗り切ろうかと必死に考えてますよね。多分、あのお二人も、そうやって死んでいったと思います。俺には苦境を何度も乗り切ってきた実績がある。きっと、乗り切れる筈だ。いや、乗り切って見せると思ってますよね。でも、彼女を、奈津さんを、過去の常識で判断するのは間違っています。どうです、僕の助言に従ってくれませんか。僕は、もう、これ以上死んでほしくない。そう思ってるんです」
三浦は返事をしなかった。
緊張した沈黙を破ったのは須藤だった。
「すみません、奈津さん。僕が間違っていたようです。自分が甘かったこと、認めます。でも、チャンスを貰えたことには感謝してます。後は、奈津さんの気の済むようにやってください。僕はもう何も言いませんから」
「そう」
「待ってくれ」
「三浦さん。残念です」
「私は、何も、話さないとは言っていない。重大な発言をするんだから、時間ぐらいくれてもいいだろう」
「無理です。あなたを見ていれば、本当のことを話してくれるとは思えません。いいかげんな話を聞かされたんでは、あなたたけではなく、僕の命も危なくなります。僕にはあなたの保身のために命をかけるつもりはありませんから」
「待て、待ってくれ。話す。だから、約束は守ってくれ。話をすれば、解放してくれるんだろう」
「申し訳ない。もう、僕にその気はなくなりました。あなたたちは、坂東も本間もあなたも、駆け引きで何とかなると自分の物差しで判断してる。正直、やってられません。もう交換条件はないんですよ。僕が降りた時点で、あなたの命は無くなったのも同然なんです。何で、そんなこともわからないのか。信じられませんよ」
「どうすればいい」
「切り刻まれて、死ぬことです。僕なら、苦痛より死を選びます。耐えられません。痛いの、嫌いなんです僕は。あなたも、早く殺してくれと頼んだ方がいい」
須藤にこんな力があったことを知らなかった。三浦は確実に追い込まれている。和子はナイフの保管箱からスローイングナイフを取り出して、投げた。的を外す心配はない。三浦の耳を掠めて、ナイフが後ろにある畳に鈍い音をたてて突き刺さった。
「ひぃ」
和子は、さらにナイフを手に取った。
「ま、まってくれ、話すから、たのむ」
三浦は額を床につけて、「たのむ、たのむ」と呪文をとなえた。
「もう一度、チャンスをあげるわ。聞いてあげて」
「いいんですか」
「仲間の命をとるのは、あまり気分のいいものじゃないのよ」
「はい」
頭を上げた三浦の体には、硬さが見られなかった。本気で喋ってくれそうだ。
「三浦さん、よかったですね。条件、復活しましたよ」
「はい」
「じゃあ、僕の質問に答えてください」
須藤は畳からナイフを抜いて、和子に渡し、三浦から見えない場所でボイスレコーダーのスイッチを入れた。
「先ず、あなたのお名前を、フルネームで教えてください」
「三浦信孝」
年齢、住所、勤務先、役職名を聞いた。家族の名前、出身地、小学校の担任教師の名前、子供の頃の思い出も聞いた。須藤は、第三者が録音された内容を聞いても、本人と特定できるような内容にしたいと言っていた。
「では、紺野さんのご両親のことについて教えてください。あなたとの関係は」
「紺野建設はうちの下請けでした。本来、孫請けのような規模でしたが、小回りを効かせるために私が育てた会社です」
「で」
「方針の変更があって」
「何の方針ですか」
「会社の外注に関する方針です」
「どうなったんです」
「紺野建設は基準から外されました」
「外されたら、どうなるんです」
「仕事は出せません」
「倒産ですか」
「そういうことです」
「倒産を苦にして、自殺したんですか」
「それもあります」
「別の理由もあったということですか」
「まあ」
三浦の口は重かった。
「三浦さん。僕はあなたが善人だとは、これっぽっちも思っていません。いい子になろうとすると不自然に見えますよ。正直に、ありのままに話してください。調べればわかることです。あなたが嘘を言っていると思ったらバーナーを使いますが、半信半疑の場合は調査をします。調査が終わるまで、あなたはここで、人間以下の生活を続けなければならなくなります。それと、一週間も無断欠勤をすれば、あなたのキャリアは復旧不可能になると思いませんか。ライバルも多いでしょう。早く元の生活に戻りたいでしょう。そのためには、洗いざらい話してしまうことです。我々には時間がありますが、あなたには時間がない。さっさと片付けることが、あなたにとって一番得だと思います」
三浦が大きな溜息をついた。
「奈津さん、上からあの首輪を持ってきてくれませんか。そこの柱に繋いでおきましよう。これでは、らちがあきません。長期戦でもいいですよね。僕も眠いし」
「わかったわ」
「待て、待ってくれ。話す」
「三浦さん。もう何回も何回も待ってるんですよ。いいかげん、僕、疲れました。我々は一カ月かかっても二カ月かかってもいいんです。気長にやりましょう」
「頼む。話を聞いてくれ」
さすがの三浦も覚悟を決めたようだった。
銀行からの借り入れを減らして、紺野建設には三浦の都合で資金を貸し付けていた。三浦の都合というのは、資金貸し付けの手数料を個人的に受け取るためで、1億の貸し付けに対して二千万の手数料をとっていた。仕事が止まり、三浦はその資金を回収しなければならなくなった。社員に対しては退職金も減額して払わせ、社長と専務に自殺を強要した。会社が受取人になっている保険を、その返済資金に充てるためだったが、承知しない社長と専務の娘を、それが紺野奈津だったが、誘拐した。保険金が手に入ったら、奈津の生活費と学費は補償するという約束になった。自分の独断で貸し付けが行われ、それが回収不能にでもなれば、三浦のキャリアが終わるだけではなく、刑事訴追される危険もあった。紺野建設の社長と専務に自殺してもらうしか方法はなかった。会社経営に行き詰った経営者の自殺は珍しいことではなく、問題なく保険金を手に入れることができた。その時に手伝ってくれたのが本間弁護士だった。本間は同じ趣味を持っていて、急速に親しくなった。同じ趣味を持つ三浦の知人だった坂東に声をかけて、三人で趣味の会を作った。耽幼会という名前をつけ、本間も坂東も中学生を連れてきた。坂東が管理人の女を用意し、三浦が家を用意した。三人だけではもったいないので、ゲストを受け入れる秘密クラブにした。常連客になった裁判官の大場と国交省キャリア官僚の三上は三人の仕事上での協力者となった。本物の中学生をホステスとする売春クラブは貴重な存在だった。しかも、男の欲望はなんでも叶えられるという特典付きなのだ。三浦は大島建設の出世頭となった。だが、紺野奈津が逃亡し、耽幼会は解散した。証拠隠滅のために、利用していた家を下請けの会社に買い取らせ、建物を解体して倉庫にした。その下請け会社も倒産し、今は更地になっている。他の女の子は坂東が海外に売り払ったと聞いているらしい。それだけの話を三浦は4時間かけて話した。もちろん、須藤が質問をして、聞き出したことも多い。
両親の自殺の真相を聞いた和子は言葉をなくした。それは、自殺などではなく、殺人だった。須藤が何と言おうと、三浦は自分の手で殺す決意を固めた。4人目と5人目のターゲットは裁判官の大場と国交省キャリア官僚の三上だったが、三浦の話を聞く限りでは、三浦を殺せば完結することのようにも思えた。あの家で、誰よりも悪逆非道な行為をしたのは大場と三上だったが、三浦のやったことに比べれば大したことではないのかもしれない。坂東と本間を殺したことは間違いではなかった。声だけしか聞いたことのない、あの二人の女の子は自分のせいで海外へ売られていったのだろうか。怒りと悔しさと悲しみで、自分が溶けていきそうな不思議な感覚の中に埋まっていた。三浦たちのせいで、和子は二度と男を受け入れられない体になっていた。九鬼を受け入れようと何度も試してみたが、体が硬直して動けなくなってしまい、最後まで九鬼と一つになることはできなかった。だから、女としての人生は終わっている。人を殺したことで、人間としての人生も終わっている。生きること、そのものが限界にきている。生まれてきたことを恨むことしか、そんなことしか自分には残っていないのか。強気を表に出しているが、いまにも、ガラガラと音を立てて崩れてしまいそうな気がしていた。
「奈津さん。休んでください。後は僕が」
「ありがとう。明日、もう一度」
「わかってます」
眠れるわけはないが、和子は自分の部屋に入った。




祐天寺で殺人事件発生。
早朝から目黒署は大騒ぎになった。死体発見場所は、まさに目黒署の目と鼻の先だった。弁護士刺殺事件の捜査本部に詰めている捜査員が叩き起こされ、次から次へと走り出していく。第一発見者の新聞配達員の電話によれば、ナイフで刺されているという通報だった。どの刑事の頭にも嫌な予感があった。
的場恭平が署に着いた時には、必殺処刑人による第三の犯行と断定されていた。全く同じ凶器で背中から心臓を一突きにされている。持ち物から、大島建設の企画室次長の三浦信孝というサラリーマンと判明した。近隣警察署からの大量動員が決められ、本庁からも増員されることになった。捜査本部の目の前で行われた第三の犯行。どの警察官も眼の色が変わっていた。警視庁の威信をかけた初動捜査が行われる。失敗は許されない。
別働隊として動いていた恭介と佐竹も聞き込み捜査を命じられ、署を飛び出した。車で行くような距離ではない。二人は小走りで、祐天寺一丁目に向かった。
「必殺の仕業なんでしょうか」
「わからない。連続殺人であることは間違いないけど、わからない」
2件の殺人が必殺処刑人の仕業ではないと思っていた恭介も自信が揺らいでいる。一時間後には、必殺処刑人に申請されたリストに三浦信孝の名前があるという情報が全捜査員に伝わった。
「これで、決まりなんでしょうか」
「わからない。でも、何かが引っ掛かってる。思い出せないけど、気になる」
早朝からの聞き込みなので、住民は笑顔で話をしてくれることはない。貴重な朝の五分を警察に持っていかれて喜ぶ人はいないのはよくわかるが、今日だけは、迷惑でも突っ込んでいくしかなかった。犬の鳴き声の証言は三件あった。犬の言葉はわからないが、鳴き声は単発で終わる場合と連鎖する場合がある。深夜の2時ごろという内容も一致している。もし、死亡推定時刻が2時前後であれば、犬だけは異常事態を感知していたということになる。ただし、目撃していたとしても、犬は証言してくれない。万が一、証言してくれたとしても裁判所が認めてくれるとは考えられない。報告書に書くべきかどうか悩むところだ。
捜査会議が6時からという連絡を受けて、署に戻った二人が7階に行くと、会議室の机は片付けられていて、人が溢れていた。全員での会議は見送られ、グループ分けの一覧表が配布された。署内のあらゆるスペースが会議室なり、そこにテーブルが置かれて臨時の会議室になった。ただし、全員が寝泊まりする場所までは確保できずに、近隣署からの応援捜査員は自分の署に戻って寝ることになっているらしい。恭介の班は廊下に並べられた机で報告書を書き、椅子だけを持ち寄って会議をすることになった。恭介は報告書に犬の遠吠えしか書くことがなかった。他の地域でも犬の話は出たと思うが、会議の席上では発表されなかった。肩身の狭い思いで、会議が終わるのを待った。
捜査本部の一員でありながら、別働隊の恭介は刑事課にある自分の机を拠点としていた。頭を整理しておきたかった。佐竹も2階の刑事課についてきた。
「的場さん。私は、必殺の仕業ではないと思います」
「根拠は」
「ありません。交通課の勘です」
「言いますね」
「あの三浦という男のことを書きこんだ人間が、犯人ではないという証拠もありません。あの騒ぎが自作自演だったら、大変なことになります」
「なるほど。鋭いですね、佐竹さん」
「でしょう」
「でも、何か材料がなければ、僕たちは捜査本部に戻されてしまいます」
「私は、的場さんと組むんだったら、本部でもいいんだけど。どうなるかわからないし、変なオヤジと組まされたら、へこむな」
「佐竹さん。そう言うのを不純な動機って言うんですよ」
「いいんです。私、交通課だから」
佐竹との会話は恭介の緊張を和らげてくれる。タフで弱音を吐かないし、相棒としては最高の相手かもしれない。
「何だろうな。的場さんが気になってること。刑事の勘?」
「さあ」
「私たちと捜査本部が違うこと。一番は必殺の扱いですよね。他には?」
「あっ。待った」
「どうしたんですか」
「手帳だ」
「被害者の奥さんから預かった、あの手帳ですか」
「確か、三浦の名前があった」
「そんなの、ありました?」
「確認してみよう」
「はい」
資料室から手帳を持ってきて、二人は黙々と手帳を読んだ。そして、一時間後。
「あった」
佐竹が叫んだ。
「どこ」
フルネームで書かれている訳ではないので同一人物と特定できないが、三浦という名前が何度も出てくる。本間弁護士のクライアントに三浦という人間がいたことは間違いないようだ。調べる価値はある。今日の報告書に書いた犬の遠吠えよりはるかに価値がある。
「行きますよ」
「えっ」
「課長のとこ」
「あっ、はい」
大増員で配置が変わってしまい、課長は署長室にいるらしい。署長室のドアをノックする勇気はない。待つしかなかった。
「佐竹さん。僕は待ちます。引き上げてもらっていいですよ」
「まさか」
「でも、いつになるか」
「私のこと、女だと思って、気、使い過ぎ。情けは人のためならずって言うでしょう」
「古い言葉」
「私も、待ちます」
「了解」
「もう。そういうのは若い女の子のすることなんです。いい歳の男がやっても、可愛くありませんから」
確かに、交通課の制服で敬礼をして「了解」と言う動作は、若い女の子に限る。恭介は了解という言葉を呑み込んだ。
署長室は、それなりに人の出入りがある。ノックもせずに入っていく本庁の人間もいた。
「誰を待ってる」
部屋から出てきた副署長が声を掛けてくれた。
「野本課長です」
「入れよ」
「えっ」
「時間の無駄だろう。ここは、今、署長室じゃない。作戦司令室なんだから、遠慮なんかするな」
「はい」
恭介はノックをして、部屋に入ったが、誰もノックなど聞いてはいなかったようだった。
「課長。すみません。見ていただきたいものがあるんですが」
「ん」
恭介はドアを指差した。
廊下には、手帳の入った靴箱を持った佐竹が背筋を伸ばして立っていた。
「どうした」
「これです」
恭介は手帳を開いて、課長に渡した。
「他には、何かあったか」
「いえ。これだけです」
「中で説明しろ」
「自分が、ですか」
「そうだ」
「はい」
「佐竹巡査も、それを持ってきてくれ」
「はい」
恭介と佐竹は、恐る恐る署長室に入った。
「すみません。的場巡査部長の話を聞いてやってください」
一瞬で部屋が静かになった。
「的場君」
「はい。これは、最初に殺された本間弁護士の奥さんから預かった本間弁護士の古い手帳ですが、その中に三浦という、顧客と思われる名前が出てきます。フルネームはありませんので、今回殺害された三浦と同一人物かどうかはわかりません。もし、この二人に接点があったとすると、ネット上の必殺はカモフラージュの可能性が出てきます。つまり、無差別殺人でない可能性も否定できません。捜査の必要があると思いました」
「わかった。この件は野本課長に任せます。捜査の詳細が決まったら報告してください」
本庁の管理官の許可が出た。今日一日の捜査でも、それらしき証拠や状況は聞いていない。どんな些細な可能性でも欲しいと誰でもが思っている。上層部の思いはさらに深刻なのだろう。三浦という名前一つであっても、即決で態勢がとられることになった。
7階の会議室に、1グループの捜査員を集める指令が飛んだ。1グループは弁護士刺殺事件から担当してきたグループで、恭介もその一員だった。野本課長の補佐をしている生活安全係の斎藤警部補が合流し、2階の刑事課で4人の打ち合わせが始まった。
「的場君、計画は」
「えっ」
「何にもなしで、俺に話した訳じゃないだろう」
「はあ」
「的場さん。被害者宅の家宅捜索って言ってたのでいいんじゃないですか」
いや、そんなことは言ってない。
「なるほど。三浦の家宅捜索だな。他には」
「本間弁護士の事務所で入金のチェックをしたいって、言いませんでした」
いや、それも言ってないし。
「それも、やろう。他には」
「あの、同じ時期に紺野という名前が出てくるんです。関係があるかどうか」
「よし。こんのだな。どんな字だ」
恭介は紺野という文字があるページを開いて手帳を渡した。
「斎藤君、意見は」
「先ず、その線でいきましょう」
「よし。会議だ」
野本と斎藤が勢いよく席を立って、7階へ向かった。恭介は全身に汗をかいていた。
「佐竹さん」
「すみません。出過ぎたことして」
「いや。助かりましたよ」
「でも、的場さんも、そう考えると思ったんです。もうツーカーのコンビですから」
確かに漠然とではあったが、家宅捜索のことは頭の中にあった。だが、手帳のことで頭がいっぱいだったことも確かだった。
翌朝一番で2枚の家宅捜査令状を取り、二人の被害者の自宅と事務所に出かけた。恭介と佐竹の二人も三浦の自宅に押し掛けた。
三浦の自宅は目白にあり、豪邸の部類に入る。家族の協力が得られない場合は令状を開くつもりだったが、ご自由にどうぞと言われた。祐天寺の事件は、発表の内容を限定した関係で三浦の自宅にマスコミが押しかける状態にはなっていない。ネット上でも、まだ話題にはなっていかった。
書斎にある棚の奥から古い手紙類を引っ張り出した恭介は、年賀状の中から本間隆三の葉書を見つけた。現場指揮官の斎藤警部補に耳打ちをして、持ち帰る物の選定をした。家族の許可を貰い、空の段ボールが持ち込まれた。被害者の家の捜索なので、恭介と佐竹は後片付けを慎重にやった。
「ご協力ありがとうございました」
「被害者だと言うのに、警察はこんなことをするのね」
「申し訳ありません。犯人逮捕の情報に繋がることを願っています」
「私たちが何を言っても、無駄なのよ。そうでしょう」
「そんなことはありません。ご協力感謝しています」
「もう、いいわ」
「あと、何かお気づきのことがありましたら、私までお電話いただけると助かります」
「そんなことすると思ってるの。まるで、私たちは犯人扱いだったのよ。さっさと帰ってください」
「すみません。失礼します」
最後の二人になった恭介と佐竹は深々と頭を下げて、三浦邸を後にした。
署に持ち帰った書類や手紙、そして古い手帳を精査したが、恭介が見つけた年賀状意外に関係資料は発見できなかった。年賀状以外に本間、坂東、紺野という名前もなかった。
本間の事務所に捜索に行った班も収穫がなく、恭介は三浦が意図的に処分したのではないかと思った。見つけた年賀状は、たまたま残っていたものだとすれば、表に出せない関係があったのではないかと想像できる。これが連続殺人であることは凶器から見ても殺害の手口から見ても間違いはない。犯人がこの三人に深い恨みを持っていたとすれば、殺された三人にも深い関係がある筈である。それなのに、年賀状一枚しかない。どう考えても不自然だった。
三浦の死体検案書では、前の2件の殺害と大きく異なることが判明した。数か所に外傷があり、顔や髪から唐辛子成分や接着剤の成分が見つかっている。それは三浦が拉致され、監禁されていたことを示していた。三浦の足取りが消えて、死体になるまでに空白の時間がある。つまり、出会い頭に殺害したのではなく、何らかの意図があったと思われる。それが何なのか。そこに辿り着くには、まだまだ道は遠いと恭平は感じた。警察の地道な捜査の積み重ねしかない。ネットに振り回されていては、事件は解決できない。
殺害場所は祐天寺だと思われるが、どこで拉致され、どこに監禁されていたのか。祐天寺の周辺は捜査員が執拗な聞き込みをしているが、監禁場所になったと思われる場所は見つかっていない。必ず、移動手段がある。不審車両の発見にも多くの捜査員が充てられていた。
糸口らしきものがあっても、どれもこれも先細りになり、糸が切れてしまう。残されているのは紺野という名前だけだった。ただ、捜査本部の中では必殺処刑人の比重は大幅に減少した。ネットは無視できないが、この殺人事件は連続刺殺事件として正面から取り組まれるようになった。本来の警察の仕事が復活したのだ。これだけ劇的に捜査方針が変えられるということは、捜査本部の上層部がまだ腐っていないということで、捜査員からもそれなりの評価がされている。
翌日、恭介と佐竹は丸の内にある大島建設本社を訪問した。昨日も別の刑事が事情を聴きにきているので、会社としては歓迎できる訪問者ではないのだろうが、大会社としての対応をすることが社員にも求められているように感じた。対外的な窓口を担当している総務部の市橋という50前後の紳士が笑顔で迎えてくれた。名刺交換すると同時に、淹れたての日本茶が出てきた。
「何度もお邪魔して、申し訳ありません」
「とんでもございません。うちの三浦のことでお手数をおかけして、恐縮でございます」
「早速なんですが、13年ほど前に三浦さんとお仕事をされていた方をご紹介いただけませんか」
「13年前ですか」
「古い話で、すみません」
「調べるのに少し時間がかかりますが、よろしいでしょうか」
「はい。お手数かけて、すみません」
今日は、恭介も下手に出ていた。笑顔と丁寧語で追い出そうとしても、そうはいかないということを態度で示しながら、あくまでも丁寧にお願いする。ネット上で騒ぎが大きくなれば、いろいろなところで歪みが出てくる。会社の対応も変わるかもしれない。
「刑事さんも、お忙しいでしょう。明日までに探しておきますけど」
「ありがとうございます。でも、ここで待たせてもらってもいいですか。なんせ、上がうるさいもんで。目の前の机ぐらいは平気で蹴っ飛ばすような上司なんです。ご迷惑だとは思いますが、お願いできませんか」
「迷惑だなんて。とんでもありません。それじゃ、しばらくお待ちください」
「無理言って、ほんとに申し訳ありません」
笑顔を見せて出て行ったが、本当に2時間も待たされた。
「敵も、なかなかやりますね」
佐竹が囁くような声で言った。
「頑張りましょう」
「はい」
ノックの音がして部屋に入ってきたのは40過ぎのエリート官僚のような男前だった。平身低頭して貰った名刺は秘書課課長の馬場幸彦となっていた。
「どうぞ、お座りください。あまり時間はありませんけど、よろしいでしょうか」
「もちろんです。すぐに済みます」
「三浦さん。殺されたんですって」
「はい。多分、他殺だろうと思われます」
「どんな死に方をしたんです、あの人」
「まだ捜査中なので、詳しいことはお話できないんです。ご協力をお願いしておきながら勝手なことを言って申し訳ありません」
「いいですよ。で、何が知りたいんですか」
「13年前の、三浦さんをご存じですか」
「ええ。同じ課にいました」
「そうですか。紺野という名前をお聞きになったことはありませんか。紺絣の紺に野原の野です」
「紺野、ですか」
「はい」
「そう言えば、紺野建設という会社がありましたね」
「紺野建設ですか」
「もう、ずいぶん前に倒産したと思いますよ」
「倒産したのはいつ頃でしょうか」
「んんん、はっきりは憶えていませんが、そのぐらいかな」
「大体の所在地と言うか、どこにあった会社ですか」
「たしか、立川の方じゃなかったかな」
「そうですか。三浦さんと紺野建設さんの関係は」
「さあ、そこまでは憶えてませんね。出入りの業者さんだと思いますが」
「そうですか。ところで、三浦さんはどんな方ですか」
「どんな、と言われましても。仕事のできる立派な方でしたよ。会社にとっては大きな損失でしょう」
「企画室というのは、どんなお仕事なんですか」
「いろいろですよ」
馬場は、あからさまに時計を見た。もう、帰れと言うことのようだ。又の機会があるかもしれない。悪印象を残していくのも得策ではないと思った。
「ありがとうございました。お忙しいのに時間をいただいて感謝しています」
「いえいえ、また、いつでも」
「はい。ありがとうございます」
大島建設のビルを出て、恭介は本部に電話連絡を入れた。13年前に倒産していると思われる紺野建設という会社を調べるために立川まで行くことを伝えた。立川署の方へは連絡を入れておいてくれると言ってくれた。
「行きましょう」
「はい」
立川署は駅から少し距離があった。刑事課へ行くと、広田という年配の警部補が待っていてくれた。
「紺野建設とは、えらく古い話ですね」
「はい。どなたかご存じの方、おられますでしょうか」
「私は当時、谷保交番におりまして、走り回りました」
紺野建設の事を知っている広田警部補が待機していてくれたようだ。
「倒産しましたよね」
会社が倒産したくらいでは警察官が走り回ることはない。
「ああ、倒産ね。確かに。でも、大変だったのは、社長と専務をしていた奥さんが二人で自殺しましてね、中学生の娘が行方不明になったんです。大騒ぎでした」
「自殺と行方不明」
「娘さんの行方は、まだ見つかっていません」
「その自殺に不審な点は」
「ありませんでした。遺書もありましたし、検視の結果にも問題はありませんでした。ただ、娘さんの行方不明が自殺の前なのか後なのか、わかりませんでした。何か事情を知っているのではないかということで、ずいぶん捜査をしましたが、見つかりませんでした」
「広田さんはどんな感触を持たれました」
「そうですね。どこか割り切れないものがあったという印象が今でもあります。特に娘さんの行方不明はそうです。会社の倒産で自殺を選ぶ経営者がいることは不思議ではありません。でも、奥さんまで一緒に自殺となると、どこか変ですよね。会社経営をしている友達がいますが、死ぬ時は独りで死ぬと言ってました。一つ一つは納得いくんですが、三つ重なると変でしょう。当時、刑事課も懸命に動いてくれましたけど、何も出ませんでした。行方不明の捜索願であんなに動いたのも珍しいことじゃないですかね」
「と言うことは、捜査資料があると言うことですか」
「あるんじゃないですか。まだ確認はしてませんけど」
「見せてもらえますか」
「ええ。捜してみましょう」
広田警部補は席を離れ、若い刑事と話をして戻ってきた。
「これは、目黒の殺人ですね」
「はい」
「インターネットで騒ぎになった」
「ええ」
「紺野建設が、からんでるんですか」
「まだ、わかりません。どこにも発表されてませんので、ここだけの話にしてください」
「もちろんです」
「一人目の被害者と三人目の被害者の接点の近くに紺野建設がいるのかもしれない、という疑いですが、何もわかってはいません」
「そうですか。自分にも娘がいますんで、あの娘さんの事は時々思い出すんです」
しばらくして、薄い捜査資料が届けられた。ざっと目を通したが、三浦に関するものはなかった。社長夫婦の自殺に関する捜査であれば、三浦の名前が出るかもしれないが、娘の行方捜索の資料だから仕方がないのだろう。聞き取りをした報告書に紺野建設の従業員だった人間もいる。参考のために写真も欲しかった。
「従業員だった人に、話を聞きたいんですが」
「さあ、古い話ですから、そこにいるかどうか」
「当たらせてもらっていいですか」
「いいですけど、大変ですよ。それより、我々がやった方が早い。捜査本部もだいぶ困ってると聞いてます。正式に捜査依頼をする方が早道だと思いますよ」
「そうですね」
恭介は迷わず電話を取り出して、野本課長に報告をして、立川署への捜査依頼の話を伝えた。課長は二つ返事で引き受けてくれた。
「お願いするそうです」
「それが、いい」
「しばらく、ここで待たせてもらってもいいですか。この資料も読みたいし」
「どうぞ。弁当、取っておきましょうか」
「あっ、ありがとうございます。助かります」
「好き嫌いは」
「ありません」
「お譲ちゃんも」
「ありません。でも、お譲ちゃんじゃありませんから」
「了解」
「うっ」
広田が席を外した。了解は佐竹だけのものではない。
「ほら。誰でも、言いますよ」
「了解」
午後になって立川署で小さな捜査会議が始まった。正式な捜査態勢になったことで、恭介は本間と三浦のことについて詳しく説明し、紺野建設の当時の状況を調べたいと伝えた。
「本間と三浦、そして紺野建設の関係。できれば、坂東という名前が出てきてくれると助かります」
「坂東。あの川崎の被害者か」
「はい。本間と三浦の接点は出てきましたが、坂東との接点が全くありません。連続殺人事件だとすれば、必ずどこかで繋がりはある筈です。でも、重点はあくまで本間と三浦と紺野の関係です。よろしくお願いします」
「なんせ、古い話だ。まず、紺野建設の従業員を捜す。親戚にも話を聞く。ところで、的場さんたちは、今日だけかね」
「いえ。明日も、朝一番から参加させていただきます」
「よし。人数に入れとくよ」
「はい」
紺野奈津という中学生の捜索記録にあった紺野建設の関係者から当たることになった。警察官になってから、一度も報告書を好きになったことがない。報告書を書くと思うだけで暗い気持ちになっていた。だが、こうやって13年後に報告書が役立っているのを見ると、考えが甘かったと認識せざるをえない。
案内役として、恭介よりも若い滝川という巡査部長が同行してくれる。男前で、口数が少なくて、暗い表情が気になるが、知らない土地での捜査だからありがたい配慮だった。恭介たちが担当した人物は大林健三という、当時50歳の男だから今では63歳になっている。国立の外れにある富士見台団地に住んでいたが、今でもそこにいるかどうか。先ず、動いてみる。机で思案していても事態はなにも変わらない。
13棟の2階に、大林の表札があった。恭介は呼び鈴を押した。
「はあい。どちらさん」
中から女の声が聞こえた。
「立川署の滝川と言います」
「警察」
「健三さんは、おられますか」
ドアチェーンと鍵を外す音がしてドアが開いた。細い年取った女の顔がドアの隙間から覗いた。滝川は警察バッチを見せて、同じことを聞いた。
「健三さんは」
「主人は、いませんよ。3年前に亡くなりましたから」
「そうですか」
滝川は、後は任せましたよと目で言った。
「13年前の、紺野奈津さんのことでお聞きしたかったんですが」
「ああ、あれね。見つかったの」
「いえ。まだです。奥さん、当時の事知ってますよね」
「私はほとんど、知らないね。なんなら、27棟に秋山さんという人がいるから聞いてみれば」
「秋山さんも紺野建設におられた方ですか」
「ええ」
「27の何号室でしょうか」
「確か、4階だったと思うけど、番号は知らないね」
「ありがとうございます。この時間おられますかね」
「もう、仕事はしてないと思うよ」
「行ってみます。お時間とらせてすみませんでした」
滝川の案内で27棟の秋山信夫の部屋に着いた。秋山の足は片方しかなかった。63歳より若いように見えるが、これでは仕事はできないだろう。紺野建設のことで聞きたいことがあると言うと、秋山は三人を部屋に入れてくれた。独り暮らしのようだ。
「懐かしい話だな」
「紺野建設にお勤めでした」
「ああ」
「倒産して、大変だったでしょう」
「まあな」
「その頃のことを話してくれませんか」
「そうさな。仕事もあって、順調な会社だったのに、ある日突然、倒産だ。驚いたね。ほら、何とか言うだろ、晴天のなんとか」
「晴天の霹靂ですか」
「そう。それよ。社長も奥さんもいい人でね、何の問題もない会社だったんだ。それなのに、もち代にもならない退職金で、辞めてくれだよ。びっくり。頭の中真っ白。たぶん、他の皆も同じだったと思う。それで、お終いよ」
「文句言う人はいなかったんですか」
「あの社長に土下座されたら、誰も何も言えないよ。悪いのはあの大島建設の奴だと言ってたな、皆で」
「大島建設の何という人ですか」
「名前は忘れた。あんな奴の名前」
「三浦という名前では」
「さあ、憶えてないね」
「そうですか」
「そうそう、皆が辞めた後で社長と奥さんが自殺してな。気の毒に、あんないい人が。社長が死んだ後で、もう少し粘ればよかったなという話になってよ。でも後の祭りってやつだな」
「どうして」
「がっぽり、保険金が入った筈だと。もう少し退職金貰えたんじゃないかってね」
「保険金」
「ほら、社長が死んだら会社に入る保険金よ。専務の奥さんも入ってたらしいから、かなりの金額になったろうって言ってた」
「その保険の事を知ってる人がいたんですか」
「ああ。事務のさっちゃんが、そんなこと言ってた」
「その、さっちゃんの名前、わかりますか」
「ええと、思い出せないな。古い話だからな」
「年齢は」
「まだ、若かったな」
「そうですか。それと、娘さんがいましたよね」
「ああ。なっちゃん、な。あの子もいい子だったな。普通、どんな家でも嫌な奴いるもんだけど、あの家族だけは違った。社長も奥さんもなっちゃんも、みんな、いい人ばかりだった。それなのに、社長と奥さんは自殺するし、なっちゃんは行方不明だろ。お天道さんはいないのかね」
秋山の目は遠くを見ていた。他の従業員の消息を尋ねてみたが、大林さんも死んでしまったからな、という返事だった。坂東という名前もヤクザも記憶がないようだった。最後まで、事務のさっちゃんという女性の名前は思い出してくれなかった。名刺を渡して、思い出したら連絡をくれるようにと頼んだ。
紺野建設はまともな会社だったようだ。税金も保険も納めているだろう。たとえ令状を取ってでも、事務のさっちゃんという女性を見つけたいと思った。
立川署に戻り、広田警部補へ報告した。
「今、うちの野田が雨宮幸子という女性から事情を聴いている」
「事務のさっちゃんと呼ばれていました。もし、その人なら保険金の話を聞いてください」
広田はすぐに電話をしてくれて、電話口に野田が出てると言ってくれた。
「的場です」
「野田です。今、雨宮さんに変わります」
しばらく待たされた。
「もしもし」
「突然で、すみません。秋山信夫さんから話を聞いたんですが、秋山さんが事務のさっちゃんと呼んでいたのは雨宮さんのことでしょうか」
「はい。多分、そうだと思います」
「保険金の話を聞きましたが、社長と専務には会社の保険金がかかっていたんでしょうか」
「はい。そんなことがありました」
「いくらです」
「死亡保険金がお二人合わせて、一億円だったと思います」
「受け取ったんでしょうか」
「それは、わかりません。私、もう退職してましたから」
「そうでしたね。ありがとうございます。野田さんに代わっていただけますか」
「野田です」
「保険金のこと、もう少し聞いておいてもえますか。それと、紺野建設が使っていた銀行の名前もお願いします」
「はい」
明日は朝から来ますと言って、恭介と佐竹は立川署を後にした。自分の署に戻って、今後の指示を貰っておかなければならないと感じていた。それと、明日は野本課長にも立川署に同行してもらい、立川署に仁義を通しておかなければならない。これで金の動きが掴めれば本間と三浦は確実につながる。まだ犯人の後姿も見えていないが、そう遠くない日に影ぐらいは見えるような気もする。
目黒署は緊張の中にあった。
「課長。何があったんですか」
「おう。ご苦労さん。またネットが騒ぎ始めた」
「そうですか」
「報告を聞こうか」
「はい」
野本課長が所轄の刑事課長に立ち位置を戻してくれたように感じた。立川での報告と明日からの予定を話した恭介に、課長は「わかった」と一言だけ答えた。反論も新たな指示もなかったことで少し気持ちが楽になった。
「不審車両は見つかったんだが、その車は羽田で発見され、盗難車だとわかった。これも、行き止まりだ」
「はい」
「ここだけの話だが、これだけ何も出ないのはおかしい。個人の犯行ではないんじゃないかと思ってしまう。だが、君の捜査では怨恨の可能性も出てきた。参ったよ、この事件は。自分の頭を冷やすためにも、今日は家に帰って、明日は立川署に直行しょうと思う」
「はい。お願いします」
捜査員に愚痴をこぼす課長の姿を初めて見た。
「佐竹さん。明日は我々も現地集合にしましょう」
「はい。時間は」
「立川署に9時でいいですか」
「了解」



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