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過去は未来を保障しません [評論]



今月紹介した皆さんの記事にも出ていましたが、「インフレ」という言葉が、しばしば、出るようになりました。もともと、有名な言葉ですから、日常会話で使っても違和感のない言葉です。ただ、日本は、「インフレ」よりも「デフレ」のほうが有名な珍しい国です。こんな国は、世界で日本だけかもしれません。
そんな日本で、「インフレ」が脚光を浴び始めたのは、世界各地に「インフレ」現象が出てきているからだと思います。
どこの国の国民にとっても「インフレ」は危険な存在ですが、日本の皆さんが恐怖心を持つまでにはなっていません。ただ、ヒタヒタと、「インフレ」の波が近づいてきていることを感じている人はいます。それは、「物・サービス」の値上げのニュースが多くなってきているからです。世界的な原材料価格の高騰の影響で、生産者物価が上昇しているのですから、消費者物価に反映するのは当然の結果だと思います。
「インフレ」に対応することは、どこの国でも簡単なことではありませんが、世界で一番難易度が高いのは、日本だと思いますので、その認識を持つためにも、「インフレ」の怖さについて書いておこうと思います。
日本の場合、実際には、「インフレ」ではなく、「スタグフレーション」という現象ですが、「物品・サービス」が値上げされるという点では同じ現象です。
これまで、タバコや電気料金の値上げは書きましたが、それは、ほんの一例に過ぎません。
2021年度に値上げされたものは、約40社の商品とサービスがあります。
ここには、ステルス値上げ(中身を減らす)や電気料金、ガス料金、ガソリン・灯油、社会保険料等の値上げは入っていません。
2022年度は、更に、多くの値上げが予想されています。本格的な値上げの波は、今年から始まります。既に値上げした商品の再値上げもあると思います。電気料金は6カ月連続で値上げされています。この値上げの波が、どのくらい続くのかはわかりません。
特に、原材料を輸入に頼っている商品の値上げは避けられません。もしも、円安が進行すれば、値上げに拍車がかかります。いや、円安が日本の命取りになります。
インフレの波が起きると、国際的な資源価格には関係のないものまで値上げされます。庶民の出費で最も大きいものが家賃ですが、家賃だって値上げの対象になる日がやってきます。住む場所を失うわけにはいきませんので、食費を切り詰めることになります。
1月からは、ゆうちょ銀行が手数料の新設を実施します。ゆうちょ銀行の記事しか見ていませんが、多分、全ての金融機関で手数料の新設が行われると思います。
その値上げ項目を見ただけでは、実感は湧きませんが、項目を見てみましょう。
払い込みサービスを現金で利用する場合の加算料金の新設、硬貨取扱料金の新設、金種指定料金の新設、ATM硬貨預払料金の新設、郵便局以外の場所にあるATM利用料金の新設となっています。
国のキャッシュレス化推進の一端なのでしょうが、現金主義の方は気を付けてください。

「インフレ」と「スタグフレーション」の違いは昨年書きました。
今、日本で起きているのは、明らかに「スタグフレーション」です。
経済成長のない物価上昇を、賃金上昇のない物価の上昇を、「スタグフレーション」と呼びます。
確かに、政府高官は、値上げを推奨していますが、日本にとって、値上げは万々歳なのでしょうか。そうは思えません。普通の国の論理を持ち出すのはいかがなものかと思います。日本は普通の国ではありません。日本には特殊事情があり、別の結果を生み出します。
その特殊事情とは、「可処分所得という壁」と「不安感という壁」のことです。
可処分所得の壁とは、何でしょう。
可処分所得とは、給料から税金と保険料を支払い、教育資金や老後資金の積み立てをし、国民が自由に使えるお金です。この可処分所得は、この数十年、全く、増えていません。いえ、税金と保険料が増えていますので、手元に残る可処分所得は減っています。デフレだから、生活が成り立っていると言っても過言ではありません。ですから、インフレは、直接、庶民生活に影響します。
身近な例を見てみましょう。
「すき屋」が牛丼の並盛を50円値上げしました。350円が400円になったのです。
仮に、毎日、「すき屋」で牛丼を食べていた人がいたとしましょう。
値上げ前の、1カ月の牛丼代は、10,500円です。
値上げ後の、1カ月の牛丼代は、12,000円になります。
もしも、この人が10,500円しか手持ち金がなかったとすると、約4日間は牛丼を諦めなくてはなりません。これが、可処分所得の壁です。もちろん、牛丼大好きな人もいるでしょうから、12,000円を工面して食べてくれる人もいるでしょうが、これを機に、牛丼代を7,000円にする人もいると思います。
世界の食品価格(牛丼の場合は牛肉)を見ると、今の高騰は始まったばかりで、今後も、価格高騰は続くと考えなくてはなりません。
可処分所得が変わらない状況で、相次ぐ値上げで、牛丼が1000円になったとしたら、牛丼が2000円になったら、食べてくれる人が、どれだけいるのでしょう。
無い袖は振れません。
「すき屋」の経営は、成り立たなくなると思います。
では、不安感の壁とは、何でしょう。
私のように人生の残年数が少ない場合は、やりくりで凌げるのかもしれませんが、若い方はそうはいきません。それが、2つ目の不安感の壁です。
国民の大半の方が、将来に不安を感じています。
将来に備えるためには、貯金しかありません。ただ、普通の方は、努力しなければ貯金なんてできません。今は、誰もが努力をし、節約意識を持つ時代です。マクロの数字でも、国民貯蓄は増え続けています。誰もが、老後を心配しているのです。
今は、1カ月12,000円の牛丼代は払えるけど、老後のことを考えて、値上げを機に、400円の牛丼を諦めて、300円のコンビニ弁当にするかもしれません。あれも値上げ、これも値上げという状況になれば、コンビニ弁当だって売れなくなるかもしれません。
この不安感の壁は、更なる不安感を生み、際限がありません。
つまり、2つの壁がある限り、値上げしてもGDPが増えることにはならないのです。
前提条件として、可処分所得の増加と将来不安の払拭がなければ、インフレによる経済成長は出来ません。
今の日本の現状は、どうなっているでしょう。
前提条件が成り立っていません。
何が起きるのか。
国民生活が圧迫されるだけです。
昨年、消費者物価は若干上昇したと言われています。もしも、携帯料金の値下げがなければ、物価上昇率は2%を越えていたという人もいます。既に、スタグフレーションは始まっているのかもしれません。

アメリカは、6%のインフレで、政府もFRBも大騒ぎです。
トルコでは、20%のインフレだと言われています。それだけではなく、通貨の下落により、約1000種類の薬が入手困難となっているそうです。トルコ在住の日本人の方は、生活必需品でも、価格が5倍になったものもあると話しています。
世界は、今、インフレへと舵を切りつつあります。
インフレに対応するために、多くの国が金利を上げ始めました。既に、50カ国くらいの国が金利を上げ、金融引き締めに動き始めました。アメリカFRBも早期にテーパリングを行い、金利を上げると言っています。世界の趨勢が利上げに向かっている時に、日本は金融緩和を続けると言っています。それほど日本は特殊な国だということです。他に選択肢がないのですから、仕方ありません。
ただ、トルコは何を勘違いしたのか、15%の金利を14%に下げました。イスラムの教えに従ったという理由だそうです。利下げにも驚きましたが、15%の金利にも驚きました。先進国では、ゼロ金利に慣れていますが、トルコは違うようです。トルコの金融機関の貸出金利は20%とか30%だそうです。日本の闇金並みの利息を金融機関は要求します。
利下げを機に、トルコ・リラが急落しています。1ユーロ4.57リラが1ユーロ20.0リラになりました。これを日本円に換算してみると、1ドル110円が1ドル480円になることと同じです。
もしも、仮に、1ドル480円になったとして、電気料金が4倍になったとしましょう。1カ月の電気代が7000円の家庭の負担は、1カ月28,000円の負担になります。1ドル1000円になって、電気料金が8倍になったとすると、1カ月56,000円の負担になります。1ドル10,000円になって、電気料金が80倍になったとすると、その前に国は崩壊していますが、1カ月560,000円の負担になります。確かに、これは机上の計算に過ぎません。では、そんな事態にはならないという確証はあるのでしょうか。いいえ、何が起きても不思議ではないと思います。日本は、インフレだけではなく、円安の影響にも翻弄されます。いや、円安の影響のほうが大きいと思います。なぜか、不幸は群れてやってきます。このメカニズムが解明できれば、それなりの対応ができるのですが、今のところ不明です。
ただ、コロナ第6波が世界の経済活動を抑制しますから、インフレは一時的に落ち着くかもしれません。しかし、インフレの世界潮流は、今年、どこかの時点で、再び動き始めます。
インフレ率は、あくまでも、平均値です。
物によっては、数倍、数十倍の価格高騰が起きます。
ですから、個人個人でインフレの影響は違います。
生活必需品、特に、食糧のインフレは、多くの庶民を直撃します。
スタグフレーション率が何パーセントまで許容できるのかというデータはないと思いますが、決して、大きな率ではないと思います。5%でも、かなり厳しいと思います。
仮に、スタグフレーション率が、トルコ並みの、20%になったとしましょう。
庶民にできることは、生活水準を落とすことです。
つまり、これは、貧困化が進むということです。
既に、日本のエンゲル係数は途上国に近づくほどの右肩上がりです。
問題は、裕福な人が節約するという問題ではなく、相対的貧困者と呼ばれている人達が、絶対的貧困者へ近づくという問題です。
この国に何人の相対的貧困者が存在しているのか、知りません。生活保護受給者だけでも200万人を超えているのですから、多分、100万人単位か1000万人単位だと思います。
仮に、相対的貧困者が1000万人だとして、その1割の人が絶対的貧困者へと転落するとした場合、100万人の人が、今日明日の食糧が手に入らない境遇になります。
世界第3位の経済大国の日本に、100万人規模の難民キャンプができるようなものです。国連が、日本に救援物資を出してくれるとは思えません。
国は、相対的貧困者の数も、絶対的貧困者の数も把握していないと思います。
国は、どうやって、絶対的貧困者を把握し、支援するのでしょう。また、その財源はどこにあるのでしょう。生活保護の申請は水際で阻止していますので、生活保護受給者は簡単には増えません。落ちこぼれる人が増えるだけです。
年末恒例の「炊き出し」では、100万人は救えません。
しかも、スタグフレーションは、いつ終息するのかわかりません。
経済が成長しないのですから、税収は増えません。
残された選択肢は、増税です。
庶民は、物価上昇と増税で、更に、疲弊します。
古くから、善政、悪政、苛政という言葉があります。善き政治と悪しき政治と苛酷な政治を表す言葉です。現在が悪政だとすると、この先は、苛政になるかもしれません。
更に残念なことに、貧困は、暴力を生み出します。これは、いつの時代でも、どこの国でも起きる現象です。私達は、苛政+暴力の世界を生きることになります。

日本はインフレに対応する手段を持っていません。
世界のインフレに振り回されるだけです。
日本は達磨さん状態ですから、ガードをする手も、パンチを出す手もありません。足がありませんので、逃げることも出来ません。
ただただ、打たれ続けるだけです。
しかも、日本の場合はインフレではなく、スタグフレーションです。
全く、打つ手がありません。
なぜ、こんな国になってしまったのでしょう。
原因は2つあります。
国家運営に失敗しました。
国民が熱意を失いました。
「お上」と「下々」というシステムを維持し、協力して、この国を駄目にしたのです。
皆で、気付かないまま、よろよろと、赤信号へ向かっているのです。
まるで、夢遊病者です。
では、何が欠けていたのでしょう。
目的と責務です。
目的もなく、責務も明確ではなく、誰もが好き勝手をし、過去に縛られ、既得権益を優先し、「自分さえよければ」「今さえよければ」「俺には関係ねぇ」と、皆で合唱し、国を衰退させてしまった結果です。
誰に責任があるのでしょう。
「お上」に丸投げし、熱意を失った、主権者である国民に責任があると思います。
ですから、国民がスタグフレーションで困窮するのは、国民の自業自得なのです。
スタグフレーションで値上がりするのは、牛丼だけではありません。あらゆる物が値上がりします。中には、何倍、何十倍になるものもあります。
そんな危険が、皆さんの目の前にあるのです。
もう、手遅れですが、それでも、気付いたほうがいいと思います。
国の価値を決めるのは、国民の意識です。
国民が頑張るしか方法はありません。
日本人が、これまでになかった新しい資源を見つけてもよかったと思います。
日本人が、これまでになかった新しい技術を見つけてもよかったと思います。
日本人が、世界に類を見ない生産性を実現していてもよかったと思います。
しかし、日本人は、皆で「俺には関係ねぇ」と言っていたのです。
これで、国民の生活が守られるとは思えません。
まさに、自業自得です。
努力が報われるという法則はありません。しかし、努力がなければ、奇跡でさえ起きません。過去は過去です。過去が未来を保障してくれるわけではありません。私達は、未来に向けて生きていくしかないのです。これが、人間の宿命です。
国民の皆さん、悲劇は皆さんの目の前にあります。どうか、目を醒ましてください。


2022-01-06



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