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狂気の国 [評論]



1月にも書きましたが、某大学のT教授がダイヤモンドオンラインに、またまた、驚きのコラムを書いていましたので、取り上げてみたいと思います。
T氏は、財政破綻や国債暴落は、暴論であり荒唐無稽だとしています。
同じ言葉をT氏にお返ししなければなりません。
ほんと、公開討論をしたいくらいです。
流石に、こんな無茶を言う学者やエコノミストは減りましたが、T氏はその希少価値を売り物にして生計を立てていると思うしかありません。
しかし、問題は、T氏ではありません。
この記事には読者アンケートもありました。私が、見た時には66%以上の読者が「財政破綻はしない」に投票しています。皆さん「いい人」ばかりですから、信じてしまうのです。
30分後に確認に行ったら、49%になっていましたが、それでも驚きの数字です。3時間後に見た時は、また61%になっていました。救いようがありません。

表題は、[ 声高に言われ続ける「国債暴落」があり得ない理由 ]です。

一行ごとにツッコミを入れたいところですが、彼の論拠の根っ子の何点かに絞って言及してみたいと思います。

先ず。
彼が債務残高のネットとグロスを持ち出している部分です。
この論拠は、多くの方が利用してきました。
グロスとは、国債残高の総量を指します。
ネットとは、負債である国債から資産を差し引いた金額を指します。
彼は、日本の資産は600兆円あるのだから、ネットの負債総額は500兆円であり、何の心配もないと言います。GDP比で100%に過ぎない、と言います。
確かに、「今は、大丈夫」でしょう。
ただし、それは、グロスとかネットという問題ではなく、日銀による、或は財務省による金利操作で維持されているのです。この記事にも書かれていますが、彼は最終的に日銀ファイナンスを目的としているように見えますので、彼自身は論理破綻だとは思っていないのでしょう。
また、T氏だけではなく、「財政破綻はない」という論者には、現在と未来を同列に語っているという騙しもあります。
問題は10年後です。
10年後も、日銀は年間80兆円の国債購入が続けられるのでしょうか。
私は、無理だと思いますが、彼は、それを推奨しています。
では、10年後のことを、考えてみましょう。
彼は、10年後の債務残高には言及しません。それを言えば、自分の論拠を脆弱にしてしまう危険があるからです。「大丈夫だ、大丈夫だ」と言いながら、10年後には借金が2,000兆円になると言えば、誰でも首を傾げてしまいます。
ですから、私が推測します。
少し抑えた数字を採用し、グロスで2,000兆円だとしてみます。労働人口が減少しますので、10年後のGDPを400兆円としてみます。資産残高に変わりがないとすると、ネットの負債総額は1,400兆円であり、GDP比では350%です。トレンドを見るため、参考までに50年後の計算もしてみましょう。国債残高は8,000兆円。GDPは300兆円。資産残高は600兆円としてみます。負債総額はネットで7.400兆円。GDP比では2,500%です。ついでに、この時の利息を計算してみると、長期金利が5%で年間370兆円になります。国民総生産(GDP)の数字より、利息の数字の方が大きいのです。
このトレンドは、危険という領域を越えています。
借金が大きくなれば、数字の上でも、ネットという捉え方は意味を持ちません。
では、ここで、ネットとグロスという捉え方が正しいのかどうか、別の側面から考えてみましょう。
負債と資産を持ち出すのであれば、どちらも同じ前提が必要になります。会計処理上の分類ではなく、現実的な換金能力について考えます。
国債は流通債権ですから、いつでも換金可能だという大前提があります。
一方、貸借対照表にある資産は、いつでも換金可能なのでしょうか。
いいえ、換金可能な資産は少ししかありません。財務省は、「この資産は、返済資金にはできません」と言っていますが、中には返済に充当できる資産もありますので、全額が換金不能とは考えていません。私は、専門家ではありませんので、確かなことはわかりませんが、多分、1割~2割程度が換金可能な資産ではないかと思います。2,000兆円の借金に対して、換金可能な資産が100兆円だとすると、役には立ちません。
企業と国家は違うと言われますが、基本的な部分では企業であれ国家であれ経済理論から逸脱することはできません。需要と供給という原則からは逃れられないのです。会計処理上の資産という分類は、換金能力という分類ではありません。たとえば、工場や機械を簿価で買ってくれる人がいますか。子会社への出資金を引き上げることができますか。のれん代に換金価値があるのでしょうか。
皆さんは、取引先が倒産したという経験はありませんか。
その時、売掛金や貸付金は返ってきましたか。
一般的に、倒産企業を整理して、分配される債権は雀の涙だと言われています。貸借対照表にある資産が、評価価格通り換金できる資産である場合は少ないのです。経済環境によりますが、売れる資産は土地くらいのものです。不景気であれば、土地さえも売れません。もちろん、現預金がないから倒産したのであって、換金可能な資産がなくなったから倒産したと考える方が自然です。
以前にも書きましたが、企業の倒産も国家のデフォルトも資金繰りで発生するのです。
資金繰りから起きる現象を、貸借対照表の数字を持ち出して否定するのは詐欺のようなものです。資金繰りの数字は現在の数字であり、貸借対照表の数字は過去の数字です。デフォルトは貸借対照表で発生するのではありません。
グロスとネットという理屈は、この現実を無視しています。
いくら資産を持っていても、換金できなければ資金繰りを助けることはできません。
このことは、企業でも国家でも同じです。
企業だって、倒産したくありませんから、売れるものは売っているはずです。売れるものがなくなったから倒産するのです。
結論として。
国債残高をネットで計算・評価するのは、経済理論や現実を無視することになります。
資産があるから大丈夫だと言うのであれば、先ずその資産を売却して、返済に充当してみてください。実際には、換金できません。これが、現実です。

次に。
財政破綻や国債暴落は十年一日のように言われてきたが、そんな事態は起きていないと言っています。T氏は、多分、この50年間のことを言っているのでしょうが、70年前に国債の暴落は起きています。では、100歩譲って、50年間起きなかったから、将来も大丈夫だと言える根拠はどこにあるのでしょう。何となく、という理由しか見つかりません。
「狼少年」の話を思い出してください。
最後に、狼は来たのです。
私達は、その部分を教訓にすべきです。
災害も人災も忘れた頃にやってきますし、特殊事情は常に存在しているのです。原因が、戦争でも借金でも、起きてしまえば、それが特殊事情と認定されるのです。

次に。
「量的緩和の出口になったら国債暴落すると、苦し紛れの言い訳をする人もいる。しかし、量的緩和の出口はインフレ目標2%を達成して、経済が正常化されたときなので、長期金利は4~5%になっているはずだ。今と比べれば、国債価格は下がる(金利は上昇)が、その場合、名目成長率は高くなって税収も増えている。財政は好転しているのだから、そもそも経済成長に伴って長期金利が上がっても、何も問題ない」という文章です。
何の説明にもなっていません。
数字の桁を無視するなんて、無茶苦茶な理屈です。
現実的には、経済成長は難しいと思いますが、仮に2%や3%の成長をしたとしても、税収が増えたとしても、現在1,000兆円の、10年後に2,000兆円の借金に財政は耐えられません。
現在、税収は大きく伸びているように見えます。これは、円安による大企業の利益増による法人税の税収増と消費税増税によるもので、この状態が続くわけではありません。
通常、2%の経済成長で増加する税収は1兆円ですが、T氏が言及しているように、長期金利が4~5%だとすると、支払う利息は50兆円から100兆円です。桁が違います。
長期金利が5%になれば、国家予算は利息の支払いにしか使えません。
これを財政破綻と呼ぶのです。

次に。
「日銀も含めた連結ベース(経済学でいえば統合政府ベース)では日本の借金は200兆円、GDP比で40%程度である」
「日銀が国債を保有した場合、その利払いは直ちに政府の納付金となって財政負担なしになる。償還も乗換をすればいいので、償還負担もない。それが、政府と日銀を連結してみれば、国債はないに等しいというわけだ」
日銀が、国債を購入していれば、財政負担はゼロである、という論理です。
これが、日銀ファイナンスと呼ばれるものです。
T氏は、グロスとネットという論理も、出口戦略の金利上昇も、財政破綻に繋がることを承知しているものと思います。ですから、最終的に日銀ファイナンスに言及しなくてはならないのです。
では、日銀が日本国債を未来永劫ファイナンスすることが出来て、財政破綻を防ぐことが可能なのでしょうか。
それは、無理です。
この理屈の最大の欠陥は、国と中央銀行の関係しか見ていないことです。国民という視点が欠落しています。
これも、よく使われる騙しの手口ですが、貨幣価値の下落による日銀の損失は税金で補填される必要があり、国民資産の国庫移転を加速させます。
中央銀行が国債を購入することで、デフォルトが発生しないのであれば、どうして世界に財政破綻をする国があるのでしょうか。どこの国でも中央銀行はあります。日本だけは、中央銀行によるファイナンスが成り立つという特殊な条件でもあるのでしょうか。いいえ、需要と供給という基本的な経済理論を無視して成り立つ条件なんてありえません。
富の創造もなく、国と中央銀行の間で、貸し借りをしていれば、いくらでもお金は使い放題だと言っているのです。鎖国していたとしても、こんな理屈は成り立ちませんが、このやり方であれば世界は認めてくれません。
日本円が破綻します。
もちろん、富に裏打ちされていない貨幣が市中に出回るのですから、国内でも貨幣価値は下がり続けます。江戸時代でも、貨幣の改鋳をするたびに物価は上がって庶民は苦しんだそうです。小判を溶かし、混ぜ物をして、一枚の小判から二枚の小判を作ったのです。平成時代の日本でも、それと同じことをしているのです。当時は、金や銀が貨幣に使われていましたから、貨幣そのものにも少しは価値がありました。でも、今の紙幣は紙ですから、そんな価値すらありません。
国は、現在やっている金融政策は日銀ファイナンスではないと否定していますが、否定できない時が来ます。それは、金融政策の場合、どこかで出口戦略に移行することが条件となっているからです。いつまでも続けていれば、ファイナンスだと認定されることになるのです。
日本だって、今は、世界市場の中で生きていますので、世界の判定を無視することはできません。世界が、日本は中央銀行によるファイナンスを行っていると認定すれば、必ず、円相場が暴落する時がやってきます。富の裏付けのない貨幣を認めてくれるお人よしは、この地球上にいません。
国民が汗水たらして稼いだお金がGDPです。そのGDPの何倍ものお金が、何の努力もなく、富の裏付けもなく流通しているのです。
国民目線で見れば、インフレターゲット政策とは、貨幣価値を下げ、物価を上昇させ、国民の購買力を減少させる政策です。国民にとっては、悪政そのものです。
しかし、異次元と言われる資金供給を実施したのに、物価は思うように上昇していません。
実は、国内で貨幣価値が下がっていない現状の方が異常なのです。
私には、伝染病の場合の潜伏期間に相当する現象に見えます。
ハイパーインフレの発生原因は究明されていないようですが、多分、これが、ハイパーインフレの温床になるものと想像しています。
今は、ハイパーインフレがマグマを溜めている状態にあるのでしょう。
貨幣と物品の交換という経済行為は、どこかで釣り合いが取れるようになっています。
現在、その釣り合いが取れていないのであれば、どこかで、爆発的な調整をすることになります。それが、ハイパーインフレのメカニズムなのでしょう。
短期的には、無理を通せば道理に勝ちますが、長期的に見れば、最終的には、辻褄は合うようにできているのです。それが、経済原則です。

日銀ファイナンスはやってはいけないことですが、現状維持という土俵に立っていれば、残念ながら、日銀ファイナンスは不可避だと思います。T氏は、財務省の要請により、御用学者の先頭を走ろうとしているのかもしれません。現在の金融政策の目的も、中央銀行による長期金利維持のためのファイナンスです。財務省は、長期金利が5%になれば、日本財政が破綻することは百も承知です。市場を無視し、金利制御をしていることを正当化するための動きかもしれません。ただ、日本国民は「いい人」ばかりですから、容易に洗脳されるでしょうが、世界の金融市場を洗脳することはできません。そんなことは、専門家であればわかっていることです。財務省は、既に、財政破綻を想定していますので、日本円の暴落という外圧が原因だというシナリオを書いているのではないかと考えてしまいます。
国は日銀の損失を補てんするために税金を上げ、鼻血も出ない状態の国民に、ハイパーインフレで物価の急騰が追い打ちをかけ、国民は、日々の食糧を確保することが困難になる時がやって来ます。
ハイパーインフレで苦しむのは国民です。財務省は借金が減ったと喜びます。
政治や行政の世界では、いつも、国民という視点が欠落します。これは、日本に限ったことではありませんが、苦しむのはいつの時代でも庶民なのです。
日銀ファイナンスは、国民の目から見れば、亡国の政策でしかありません。
私達は、80年前と同じ道を歩んでいます。



T氏は、都合の良い条件を提示して、「財政破綻はしない」と書いていますが、裏を返せば「財政破綻は不可避である」と言っているようなものです。不都合な条件を排除し、数字の桁を無視しているのですから、その根拠が否定されたら、財政が破綻することを証明することにしかなりません。日本国民は、コロッと騙される「いい人」ばかりですから、効果はあるのでしょうが、いずれ現実が否定します。そんな記事を書く意図はどこにあるのでしょうか。
この国には言論の自由がありますから、何を言っても、何を書いてもいいのです。
T氏には、書く権利があります。
これは、読む人の責任なのです。
私は、何度も「国民とは」と問いかけています。国民には、これらの記事を正しく読むという仕事があるのです。それが、国民の責務です。
そんな中、6割もの人が、その話を信用してしまうのは、馬鹿を通り越して、異常というしかありません。
ネットを使い、ダイヤモンドオンラインの記事を読んでみようと思い、小難しい財政問題の記事に目を通す人は、決して知的レベルの低い人ではないでしょう。専門用語も出てきますし、全く財政に興味のない人であれば、意味さえ分からないはずです。
それでも、こんな騙し記事を信用してしまう。
この国民のレベルの低さを証明するような現象を喜んでいいとは思えません。
もちろん、石田の記事も信用する必要はありません。石田なんて、肩書もなく、知識もない、ただの爺です。
判断するのは、読む側の人の仕事です。
T氏は、一流の出版社に記事を書き、政府の諮問機関にも呼ばれ、橋下徹の経済相談役をしているのです。この国は、やはり、狂っているとしか思えません。
どうして、こんなことが行われているのか。
理由は簡単です。
為政者は、自分に都合の良い学説を主張する学者を好む傾向が強いのです。
これは、為政者の欲が生み出した、バーチャル世界なのです。
なぜ、そんなことが出来るのか。
財政破綻が起きれば、政府も大学も出版社もネットもなくなります。
崩壊すれば、国民は食糧確保に忙しくて、T氏を批判するゆとりはありません。
それまでは、言いたい放題言っていても大丈夫なのです。
とりあえず、目先、カネになればいいのです。
平成の大人の見本のような人だと思います。
これは、関係ないと思いますが、彼は元財務官僚だったそうです。
いや、やはり、関係しているのかな。
この国は、今、狂気の国にしかみえません。
確かに、結果が出るのは10年後ですが、何も、よりによって、皆でドツボに嵌りに行くのは賢明な行動だとは思えないのですが、仕方ないんですかね。
やはり、生き残った日本人の皆さんに期待するしかないのでしょうか。



何度も書きますが、必要なのは、想像力です。


2016-02-09



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