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二つの聖域 [評論]



社会保障制度改革国民会議なる諮問機関の報告書が出されたそうです。
秘密裏に懸案とされていた項目の大半は先送りにして、国民会議は責任回避を図ったようですが、報告書を手渡す儀式を見ていると、その図式がよく見えるような気がします。
秘密裏にという意味は、国民に対して秘密にされていたという意味であり、検討を委託された当事者の皆さんは当初から承知していた項目という意味です。
報告書を提出している人は国民会議の責任者の人でしょう。それを受け取っているのは安倍総理です。提出側の人は、終始ヘラヘラとした笑顔を見せていますが、安倍総理には笑顔が少ないだけではなく、「御苦労かけました」という感謝の表情もありません。どちらかと言うと、憮然とした態度で報告書を受け取っているように見えました。
どうしてでしょう。
その内容が不満だからです。
報告書の内容には、財務省も満足していませんし、安倍総理の周辺も「社会保障費削減は支持率が高い間に、一気呵成にやってしまおう」という意見が多いと聞いていますので、安倍総理も報告書の内容には満足していないと思われます。
でも、一寸、待ってください。
国民会議は、社会保障の充実のために立ちあげられた諮問機関だったはずです。それが、どうして削減会議になってしまったのか、なぜ削減内容が不十分だと思われてしまうのか、とても不思議です。
それは、国民が社会保障の充実という「お上」の言葉を真に受けていたからです。
社会保障費は大幅に削減しなければならないと、財務省も政権も考えています。
ですから、国民会議を悪者に仕立て上げ、「国民会議の答申に基づき」という言い訳が欲しかったのです。儀式は済んでいますという、いつものやり方です。
一方、国民会議の人達は「自分達が悪者にされては困る」と思って、結論の先送りを優先させたのだと思います。国民会議のメンバーは、最初からやる気がありませんでした。儀式なのですから、最初から官僚の指示に従えばよかったのですが、社会保障充実のためという建前に影響を受けた部分もあったのだと推察します。
それでも、社会保障費削減のメインイベントは年金・医療・介護であり、今回は小さな一歩にしかなりませんでしたが、それでも第一歩は踏み出しました。

この国民会議という名称、いかにも胡散臭い臭いがしますが、それでも、納得している国民の方が多いものと推察します。何を言われても信じてしまう、いい人達ばかりですから当然です。でも、私は腐臭を感じます。この会議に出席している人達が国民ではないと言っているのではありませんが、彼等は利権で繋がっている人達で、庶民の立場で出席している人は一人もいません。そんな会議に国民という名前をつけるのは、納得がいきません。国民会議という名称では、多くの国民が、自分達の味方だと誤解すると思います。もちろん、それが目的でつけられた国民会議という名称ですが、結果的には、権力者も国民も、騙されたような気分なのではないかと思います。
消費税の増税分は全額社会保障費に使います、というのが最初のお約束でした。でも、年金特別会計はあっても社会保障費特別会計があるわけではないし、消費税の増税分で徴収した税金に色が付いている訳でもありませんし、一般会計の歳入になるのですから、何に使ってもいいのです。
そもそも、この国民会議が立ちあげられたのは、社会保障の充実という言葉でカモフラージュされていましたが、当初から社会保障費の削減を決めるための会議だったのです。それが守られなかったので、財務省も政権も不満な表情をしているのです。国民の多くも騙されたのですが、騙されたことに気付いていませんし、気付いている人でもヘラヘラと笑っているだけです。
増税も社会保障費の削減も、財政破綻の時期を遅らせるためのものですから、社会保障の充実という言葉は、その場かぎりの言い逃れに過ぎません。でも、社会保障の充実という主語を使わないと、財政破綻という主語が国民に見えてしまいます。財政破綻という言葉が国民と密接な関係があることを、最後まで隠しておかなければ、財政を穴埋めするためには欠かせない国民貯蓄を使えなくなってしまいます。国民がヤバイと感じて、貯金を引きだしたら、この国は終わります。現在の金利水準であれば、銀行にお金を預けておく魅力はありませんので、国民がタンス預金を選択する可能性は低くありません。ただし、国が通貨切り替えをすれば、タンス預金は紙屑になりますが、庶民としては貯金の引き出しはするものと思います。最後の最後まで、財政問題と国民の貯金に密接な関係があることを隠さなければなりません。密接な関係という言い方は少し弱いかもしれません。今や、財政と貯蓄はコインの表と裏の関係です。そんなことが、国民に知れたら大変です。
ですから、主語を社会保障の充実にしておいて、国民の負担増が答申されることは、予定通りの答申なのです。国民は、増税議論の時に「社会保障のためなら、仕方ないか」と言っていたのですが、国には当初からそんな意図はありません。何も知らない国民は、ほんとに、幸せ者なのかどうか、やはり疑問が残ります。いつも、お代官様と越後屋に騙される農民という構図は、そろそろ、やめなくてはなりません。
増税と社会保障費の削減を同時にやらなければ財政が持続できないし、増税も今回の社会保障費の削減も最初の一歩にすぎません。これからも、更なる増税と、更なる社会保障費の削減は続けられます。国民は、どこまで我慢できるのでしょうか。
答申の内容を見てみると、今回の生贄は老人になるようです。
以前に、弱者から順繰りにターゲットにされると書いたことがあります。
障害者、生活保護受給者、そして、やっと、老人の順番が回ってきました。少し遅れて、老人予備軍の方がターゲットになります。今回は、年金支給開始の年齢引き上げは見送られましたが、削減のメインイベントはそこにあります。その時には、バランスを取るために、既に老人になっている方達も、再びターゲットになります。社会保障費削減の本命は何と言っても老人です。ですから、しばらくは、老人いじめが続くでしょう。老人の次は、女性になるのか、非正規社員や準非正規社員になるのかはわかりませんが、少なくとも利権集団に属していない人達は全員がターゲットにされます。
確かに、中途半端な答申でしたが、少なくとも社会保障が充実したわけではなく、国民負担の増加が答申されました。政府や財務省は、その負担増加が少なすぎると不満を抱いていますが、国民は何もすることができません。ここでも、利権集団と利権集団のぶつかり合いしかありません。両者とも責任回避を第一義とした戦いでした。この仕組みを変えることが民主化なのですが、そのことに気付いている国民はほとんどいません。
日本の財政事情をみれば、歳出の削減は避けて通れません。では、一般会計の歳出は社会保障費しかないのでしょうか。また、一般会計以外の歳出には問題がないのでしょうか。
安倍総理は、聖域であっても歳出を削減すると言っていますが、国民にとっての聖域と、利権集団の聖域とは別の聖域であり、安倍総理が言及しているのは国民にとっての聖域だけです。政治家の利権も、官僚の利権も聖域になってしまいましたが、国民の手では届きません。利権集団の聖域は温存されます。


国民会議の言い出しっぺだった民主党は、国民会議を離脱するそうです。なんと情けない政治集団なのでしょう。自民党が言うことをきいてくれないから、やめるそうです。まるで、ガキの喧嘩です。あの歴史的な党首討論の勢いはどこへ行ってしまったのでしょう。財務省の官僚にマインドコントロールされた野田前総理は、まだ、マインドコントロールされたままなのでしょうか。増税と社会保障費削減のお先棒を担がされて、自分の政党を壊してしまった人が、まだ民主党に在籍していることが不思議です。ほんとに、ひどい政治家でした。そんな野田さんがいる政党ですから、仕方ないのかもしれません。
でも、勘違いしないでください。政治家は、ただの操り人形にすぎません。このシナリオを書いているのは官僚です。日本の最高権力者は官僚だと何度も書きました。個々の官僚は自分が最高権力者だという認識を持っていないのかもしれませんが、そのことは、実に厄介なことなのです。独裁者がはっきりしている方が、対応の方法があります。誰が権力者なのかわからないと対応できないのです。曖昧な権力者と、曖昧な民が、国家を形成しているのですから、何をやっても曖昧になるしかないのです。


消費税増税「点検会合」が開かれるそうです。ネーミングに少し違和感がありますが、何よりも出席者に違和感があります。社長や会長という「××長」という方の出席が多く、御用学者とリフレ派の方々が出席します。若手エコノミストも若干名参加するようですが、どこまで意見が言えるのか疑問があります。一般庶民の出席はありません。もっとも、一般庶民が参加できる公聴会を開いても、ほとんどが「やらせ」の会になりますので、意味はありません。国民の声が届かないような仕組みになっている上に、念を入れるような配慮がされているとしか思えないのですが、どうなのでしょう。日本の民主主義は儀式なのだから、これでもいいという考えなのでしょうか。一般庶民の声が国家運営に反映されるような仕組みは必要ないのでしょうか。いつまで、こんな茶番をやるのですか。なぜ、国民は平気なのでしょう。それは、自分が犠牲者になる、などと露ほども思っていないからではないでしょうか。最後には、貯金が全て取り上げられることになる、なんて想像すらしていません。これは、やはり、国民の自己責任だと思います。
普通の国であれば、納税拒否の権利など憲法に明記することはありませんが、日本の場合は、国民の権利を明記する必要があると思います。
「点検会合」は、私には、利権集団が酒盛りをしているように見えます。


2013-08-23



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